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ダブルフェイスハンター  作者: 長野 雪
第10話.シンデレラの三人の義兄
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5.戦慄のミドリアカアオガエル

『あなたが自慢するミドリアカアオガエルをいただきにあがります。

 ――――怪盗エレーラ・ド・シン』



「ミドリアカアオガエルって、そもそもなんだよ」


 予告状のあったプライム邸に向かう道すがら、ボヤいたのはフェリオだった。


「そのまんまのカエルだよ。体が緑と赤と青の三色のまだら模様なんだって。なんでも稀少種な上に、その模様の美しさ次第では高値で取引されるって話だよ」

「爬虫類にそこまでやんのか? つーか、なんでカエルだよ。エレーラの傾向から全然違うじゃねーか」

「カエルは両生類だよ。……一応、美術品つながりってことなのかな。あ、門の前にいるのって、ダファーじゃないか?」


 リジィが指差す先にはひょろりとした男。そして―――


「なんだ、ヤードにめちゃくちゃカラまれてんじゃねぇか」


 アンダースン警部が目の前で怒鳴りつけているのが見える。大方、これまで通りに「正義新聞の犬が!」とか叫んでるんだろう。


「こんばんは。リジィ・キーズさんに、フェリオ・ドナーテルさん」


 こちらに気づいた若い巡査が声をかけてきた。その言葉に警部も二人の存在に気付く。


「おう、なんじゃ、今日は姉ちゃんキーズはおらんのかい」


 アンダースンは二人を見るなり核心を突く。


「あぁ、そのことなんですけど。事情があって、姉はハンター稼業を休業することになりました」

「ケガでもしたんか?」

「いえ、田舎に帰る用事ができたので。もしかしたらこのまま廃業するかもしれません」


 すらすらとまるで原稿を読むかのような淀みない答えに、フェリオは表に出さず感心した。


「そうか。まぁ、帰って家庭を持つっちゅう選択肢もあるんじゃろ。こんなヤクザな商売じゃけぇの」


 アンダースンはしみじみと言う。


「えーと、そろそろ放してくれませんか。アンダースン警部」


 声を上げたダファーの胸ぐらは、ずっとアンダースン警部に掴まれたままだった。


「じゃかぁしい! この犬めっ!」

「いや、ですからハンターですって」

「たとえ雇い主が許そうとも、ワシが許すわけにはいかんのじゃ」


 つばを飛ばしながら力説するアンダースン警部に、ダファーは少しだけ顔をしかめた。


「えぇと、ピエモフ巡査。ヤード法規第十八条を知っていますか?」

「はい。『ヤードは犯罪行為に関わる場合を除き、特定の職業について差別、またはそれに値する行動をとってはならない』です」


 唐突な質問だったにも関わらず、彼――スワンはすらすらと答えた。


「と、いうことです。警部」

「……」


 無言でダファーを解放するアンダースン。固く握りしめた拳がぷるぷると震えていた。


「血圧上がりますよ。警部」


 見かねたスワンが声を出す。


「じゃかぁしいわい! ほれ、とっとと行くぞ」

「はい、警部」


 ずかずかと邸の中に入って行くアンダースン警部。三人に向かってぺこり、と一礼してスワンが続く。


「結構、苦労人だよな」

「……誰が?」

「あの、巡査」

「そうかな? 意外としたたかな気もするけど。そのうちウォリスさんみたいになっちゃうんじゃない?」

「あぁ、あの警視正か」


 あいつもグルなんだもんなー、と呟くフェリオ。


「そうだ。ダファー。あの仮面女って……」

「はい、シーアさんのことですか?」

「そういや、そんな名前だったかな。あいつは、こういうのに参加しねーの?」

「あの人は事務、兼、社長のおもちゃですから。元々、そういう人間でもありませんし」

「ふーん。社長のおもちゃねぇ」


 まぁ、いじりやすいキャラではありそうだが。


「なんですか? まさかディアナさんがいなくなった途端、浮気ですか?」

「な、……んなわけねぇだろ」

「へー。そうなんだ。ダファー、姉さんにチクっておいてよ」

「だから、ちがうっつってんだろ」

「はい、確かにお伝えしておきますよ」

「だーかーらー!」



 ◇  ◆  ◇



「……これが?」

「はい。これが、ミドリアカアオガエルです」


 フェリオの問いに答えたのは、無駄にカラフルなスーツを来た男性だった。

 警備と賞金首のために集まった人間は、そのほとんどがこの大広間に集まっている。だが、その中にはちらほらとカラフルなスーツを着た、明らかに場違いな紳士が混じっていた。


「これが、予告の対象ってこと?」

「いえ、これは私個人の持ち物です」


 リジィの問いにその紳士は胸を張って答えた。フェリオがまじまじとその紳士を見る。頭のてっぺんからつま先まで、やたらと色を使いまくったいでたち、そしてぴしりと着こなすスーツは「私はジェントルマンでございます」と公言してはばからない。


「……何か、根本的な所を外している気がするんだけどよ。あんた、警備要員じゃねぇよな?」

「もちろん! 私や私のように色どり豊かなスーツを着ている人間は『極彩色のセ会』のメンバーです」

(……極彩色の世界?)

「差し支えなければ、活動内容を聞かせていただけますか?」


 一歩後ろに引いた二人に代わり、質問を投げかけたのはダファーだった。手にはペンとメモ帳が用意されている。


「極彩色のセ会はその名の通り、色を愛する者の集まりです。メンバーの一人、プライム伯のこの邸も……ご覧ください、色に満ち溢れているでしょう」


 三人はぐるりと広間を見渡した。

 壁紙は『カラフル』という言葉だけで言い表せないぐらいの原色のタイル模様。机にかけられたテーブルクロスは南国の花々。花瓶もそこに生けられた花も、すべてが『目に痛い色』だった。


「つまり、色を愛する会、と解釈してよろしいんですか?」

「いえいえ、そもそも色とは何か。色は人の心を和ませ、また、興奮させる。色とは神が私たちに与えてくださった唯一無二の尊いものなのです。色の本質を見抜き、それを融和させ、単一では表しきれない複雑な感情をも描き出すことが、私たち『極彩色のセ会』の目的なのです」

(単一では表しきれない……ねぇ)


 リジィは再びぐるり、と部屋を見渡した。あまりに自己主張の激しすぎる部屋に、うんざりした顔を見せるハンターもいる。これだけ色がぐちゃぐちゃしていると、落ちつくも興奮するも、ただ人を不快にさせることしかできないような気がした。


「そして、私たちが今、最も注目しているのが、この『ミドリアカアオガエル』なのです。心安らぐ木々の緑、脈打つ血の赤、そして澄み渡る空の青! これら全てをこのカエルは持っているのです。素晴らしいとは思いませんか?」

(いや、ぜんぜん)


 唇の形だけで答えたフェリオを、リジィは目撃した。声に出して同意したいところだったが、雇い主の同類らしい人間に不快感を与えるわけにはいかない。


(ダファーに任せておけばいいか)


 無責任なことを考え、天井をあおぎ見る。

 シャンデリアすら、目に痛かった。


―――その時、大広間の扉が開き、黒いスーツの執事と、アンダーソン警部、ピエモフ巡査、そして雇い主たるプライム伯が入って来た。途端に、それまで騒がしかった広間がしーんと静まりかえる。


「あー、皆さん」


 ダンディなヒゲのプライム伯が声を出した。


「すでに、聞いていると思うが、今宵、警備に集まってくださった皆さん方には、一律一万イギンを。もしも快盗エレーラを捕まえた方には私個人から百万イギンを支払うことを約束いたします。……そして、これが、私の所有する、『ミドリアカアオガエル』です」


 プライム伯の言葉に従い、数人の使用人がうやうやしくガラスの水槽の乗ったカートをガラガラガラ……と広間の中央へ運んでくる。


「私の所有する『ミドリアカアオガエル』の特徴は、何と言っても右目の斜め後方にある黄色! そう、まさに『ミドリアカアオ「キ」ガエル』なのです!」


 おお、と声をあげたのはあの『極彩色のセ会』のメンバーだけだった。

 他の人間は、そこはかとなくうさんくさそうな目つきで、その両生類を見つめている。

 その目は全て、「だからどーした」と語っていた。



 ◇  ◆  ◇



「そろそろ、だな」


 大広間が緊張に包まれていた。

 結局のところ、大広間に集まった警備の人間は一定の間隔で置かれたカエルの水槽の周りに立っていた。ターゲットのカエルと極彩色のセ会のメンバーが所有するカエルを混在させ、相手の目を欺こうという考えなのだが―――


(どのカエルに近づくかは、くじ引き、なんて聞いてねぇよ)


 ヤードの人間も平等にくじ引きのため、アンダースン警部も別のカエルの近くに立っていた。本物にあたったのはダファーを含む数名。エレーラの手引きをしているダファーが本物の近くにいる時点で、今回も盗まれることは確定したような気がする。

 ちらりと広間中央の水槽近くに立ったダファーを見た。


(案外、どっかで細工したかもしんねぇな)


 そう考えついたとき、広間の明りが全て消え、闇が広がった。とたんにゲコゲコと騒ぎだすカエル達。


「っ!」


 突然の出来事に広間がざわつく。だが、予測していたのか、アンダースンの隣にいたスワンがカンテラを取りだした。

 ぼんやりと映し出されたその光景に、誰もが言葉を失った。

 びろ~ん、とジャンプ中のような格好で、カエルがまっすぐ天に昇っていく。ゆるゆると、まるで―――

 誰かが水槽の真上にあったシャンデリアに向かって何かを投げつけた!

 キィンとかん高い音とともに、それはシャンデリアの上の中空で弾き返される。


「いやん、見つかっちゃった♪」


 それはハデな原色タイル模様のマントを羽織った、エレーラであった。

 マントの下はいつも通りの黒いボディスーツにゴーグルである。そして、その手にしているのはトレードマークのムチ……ではなく、棒と糸で作った粗末な釣り竿だった。


「もうちょっと、待ってね♥」


 くるくると糸を巻き上げ、エレーラがカエルを釣り上げる。カエルはまぐまぐと何を食べているのか知らないが、おとなしい。


「ふ、フランシィヌっ!」


 悲痛な叫びはプライム伯のものだった。


「待て、フランシィヌは駄目だ! それだけは返してくれっ! 他に欲しいものもあるだろうっ!」


 集まった警備の人間は、手を出したいものの、カエルに万が一のことがあれば、と二の足を踏む。それを知っているのか、エレーラが微笑んだ。


「どうも、こんばんわ、皆さん。……あら、アンダースン警部、額に青筋が浮いてるわぁ♪」

「おんっどれは! とうとう生き物に手を出しおってっ!」

「いやん♥ せっかく極彩色のこのお邸に合わせたコーディネイトしたのに、誉めてくれないの?」


 エレーラの言葉に、誰かが「素晴らしい……!」と答えた。


「色の豊かなこの邸に、それに合わせたマント! そしてこの邸だからこそ映える、黒装束! なんと素晴らしい組み合わせなんだ!」


 言うまでもなく、極彩色のセ会のメンバーの一人だった。


「だが! 我ら会員にとってもかけがえのないその『フランシィヌ』ちゃんを盗むのは許しがたい! 即刻返したまえ!」


 暑苦しいその言葉に、他の会員が「そうだ、そうだ!」と尻馬に乗る。


「あたしは、この『フランシィヌ』ちゃんを盗むなんて言ってないわよ?」


 ねー、と手にしたカエルに話しかけるエレーラ。


「だいたい、あたし、カエルの飼い方なんて知らないもーん」


 シャンデリアに腰かけたエレーラは、何か缶のようなものを取りだして、フランシィヌちゃんをその中に入れた。


「あ、あれは……」

「ケロぷちゴールド!」


 極彩色のセ会のメンバーが口にした通り、その缶の外側にはデフォルメされたカエルの絵と『ケロちゃんまっしぐら』の歌い文句が書かれていた。


「なかなか良さそうなもの食べさせてるのね♥」


 一心不乱に缶に顔を突っ込むフランシィヌを見ながら、エレーラが興味津々に呟いた。


「まさか、こんなに簡単に釣れるとは思わなかったけど……」

「きさまっ! ケロぷちゴールドはいくらすると思ってるんだ! 私だって週に一度しかあげないのにっ!」


 何やら別のところで怒るプライム伯。


「だって、カエル専用食糧庫で一番高そうな缶を選んだのよ、あ・た・り・ま・え♥」


 色気をふりまいて答えるエレーラを、複雑な表情で眺める二人がいた。

 一人はリジィ。そしてもう一人は……


(くそっ! なんで今まで気づかなかったんだよっ!)


 そうと知ってわかる明らかな共通点に、歯噛みしているフェリオだった。


「いい加減に、フランシィヌちゃんを解放しろ。いや、してくれ。してくださいっ!」


 プライム伯が両手を目の前で組んで「お願い」のポーズをする。


「いいわよ♪ ……でも、その前に」


 エレーラはなおもケロぷちゴールドに頭を突っ込むフランシィヌの、問題の黄色い部分に触れた。


「予告通りに、『あなたの自慢するミドリアカアオガエル』は奪っていかないとね♪」

「なにを、……あ、あぁーっ!」


 極彩色のセ会のメンバーが一様に驚いた声をあげた。

 エレーラの触れたフランシィヌの体から見る間に黄色が消えてしまったのだ。

 プライム伯は声も出せない。


「はい、ただのミドリアカアオガエルになりました♪」


 じゃじゃ~ん!とフランシィヌを下の観衆に見せびらかすエレーラ。


「さて、次は、この三角形の葉っぱを―――」

「あっ……」


 プライム伯が口をついて出た驚きの声を慌てて止めた。


「いやぁね、伯爵サマ。知ってるくせに♥」


 エレーラの手の中の葉は、あんぐりと口を開けたフランシィヌに奪い取られ、そのまま、もしゃもしゃと食べられてしまう。


「さぁって、お立ち会い!」


 エレーラは再びカエルを下に見せるように差し出し、そのままぽいっと、下に放り投げた。


「うわわわっ!」


 慌てて受け止めるプライム伯。しっかりキャッチしたその様子に極彩色の会のメンバーがほぅっとため息をつく。


「あ、黄色くなってきた」


 誰かの呟いたセリフに、フランシィヌが注目を浴びる。その言葉通り、フランシィヌの体に黄色が戻ってきていた。


「プライム伯。これは……? あの草がなんなのかご存知なのですか?」

「いや、私は……」


 メンバーに詰め寄られ、伯爵が口ごもる。


「あら? もちろん知ってましたって言わなきゃ。あの草で黄色くなった体が、この『ケロぷちゴールド』を食べると元に戻っちゃうって♪」

「……なっ! 勘違いもはなはだしい! いったい何を根拠に」

「草の正体知ってるでしょ? だって、『ケロぷち』も草もカエル専用食糧庫にあったもの」


 妖艶な笑みを見せたエレーラは、流れるような動作でカードを投げつけた。その先にいるのはアンダースン警部とスワン。


「うわっ!」


 避けようとしゃがんだスワンの頭上で、誰かハンターがそれを叩き落とす。それは、毛足の長い絨毯にとさっと落ちた。


「なんだ、これ」


 ハンターが拾い上げたそれをスワンが見つめる。

 エレーラ得意の銀のかぼちゃのカード。そして、それに引っかかっている葉っぱは―――


「コカの葉ですね」


 その言葉に広間がしん、と静まりかえった。誰もが知っている禁制の麻薬の名前に、声も出ない。


「アンダースン警部。応援を呼びましょうか」

「おう、支部に連絡しろや」


 ひぃっ、と声を上げるプライム伯。


「な、何かの間違いでしょう。第一、カエル専用食糧庫に、そんな葉を見た覚えなど……」

「あぁ、すいません。私があります」


 声を上げたのはカラフルなスーツを着た紳士の一人だった。


「魔法の葉っぱだって自慢してましたから、よく覚えてますよ」

「あぁ、そういや、そんな葉っぱだったな」

「私はもう少し先っぽの若葉を見せてもらいましたよ」


 一人が告発すると、次々に声が上がった。


「くっ、かくなる上は―――」


 逃げ出そうとするプライム伯の頭にカコーンと何かが投げつけられた!


(ケロぷちゴールド!)


 フランシィヌがから空にした缶である。


「それじゃ、そういうことで♪ 確かに『プライム伯の自慢のミドリアカアオガエル』はいただきました」


 エレーラはカラフルマントをばさっと脱ぎ捨て、天井裏に消えた。

 ハンター達がこぞってやしき邸の外に飛びだす。もちろん、その中にフェリオの姿もあった。我先にと飛び出す彼らは玄関に向かうことなく、そのまま窓から出ていく。

 どたどたと慌ただしい足音が去った頃、


「……アンダースン警部?」

「なんじゃい」

「どうしてわたしが捕まえちゃったんでしょうね」

「どうせおんどれは、エレーラ追う気などないんじゃろがっ!」

「まぁ、その通りなんですけど」


 広間に残ったのは、プライム伯を取り押さえたダファー。ヤードの面々。極彩色のセ会のメンバー。そして、フランシィヌを含むミドリアカアオガエルだけだった。



 ◇  ◆  ◇



「……っくしょう。どこに行きやがった?」


 遠くの方で誰かの舌打ちが聞こえる。


「だいたい、なんだよ、あの部屋! 目ぇチカチカしてきやがる!」


 遠くの声に、それももっともだと彼は頷いた。

 やがて、その一団の声も、遠ざかっていった。残ったのは彼一人。


「そこにいるんだろ、エレーラ」


 フェリオは声をあげた。


「人のところ尾けて来やがって、何のつもりだ?」

「……いやん、バレてたの?」


 フェリオの後ろの路地から闇に溶ける黒装束の人影が出てきた。


「なんだよ。いちいち笑いに来たのか、お前は」

「別に? だって、あたしの逃走ルートの前を走ってるんだもの♥」


 くるりと振り向いたフェリオが見据えたのは言うまでもなく、エレーラだ。


「あ、左手はなしにしてね♪ とってもイタかったんだから」


 片手にムチを構えたエレーラがストップをかける。


「シーアから聞いた」

「うん、『へりおさんが恐い顔してた』って言ってたわ♥」

「……」

「それで、どうするの? 何か言いたいことでもある? 罵る文句ならちょっとは聞いてあげるわよ♪」

「……きだ」

「ん? 何か言った? 声が小さくてわかんなーい♥」


 フェリオの左手がぐっと握られた。


「それでも好きだっつってんだよ、ちくしょう!」


 予想外の言葉にエレーラが絶句した。


「どれも全部ひっくるめて好きなんだから、仕方ねぇだろっ! とっ捕まえてやるから覚悟しろ!」

「……ほんき?」

「おうともよ」


 もはや照れる様子もなく開き直ったフェリオに、エレーラが口元を押さえた。


「ちょ、っと、いや、その……あぁー、そうね、捕まえられたら、答えをあげる♥」


 なんとか平静を取り戻し、笑みを浮かべるエレーラ。


「いま、欲しいんだけどなっ!」


 フェリオが地面を蹴る!


「せっかちさんは、ダメよ♥」


 エレーラが投げつけた銀のカードを、フェリオは難なく払い落とそうと右腕を振り上げ―――


ぼふんっ


 銀のカードが噴煙をあげた。


「アニキ特製の煙幕でした~♪」


 白い視界の中、エレーラの気配が遠ざかっていくのを感じた。

 残されたフェリオは、ふぅっ、と大きくため息をつく。


「……言っちまったよ、おい」

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