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ダブルフェイスハンター  作者: 長野 雪
第10話.シンデレラの三人の義兄
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2.執筆社長と仮面社員

 コン、コンとノックの音が響いた。


「どチラさまデスか?」


 答えたのは変な発音の女の声。


「コンヴェルです。社長に客を連れてきました」


 ダファーが名乗ると、パタパタと足音が近づいてきた。


「おツカれさまでスでしタ」


 ドアを開けたのは黒髪の……とても無表情な顔をした、多分、女性だった。男でスカートをはく人もいないだろう。


「シーアさん。『お疲れ様でした』」

「ハイ。おツカれさまでシタ」


 間違いを指摘されて、彼女はきちんと復唱する。


「社長はどこですか?」

「シャチョサンは『シッピツ』してマス」


 ダファーは「やっぱりそうですか」とボヤくと、シーアと呼ばれた女性にお茶を頼んだ。


「オチャでスネ。わかりまシタ」


 ダファーは彼女がちゃんと台所の方へ行ったのを確認してから、二人を奥の部屋へ案内した。


「……変わった人を雇ってるんだね」


 思わずリジィが呟いた。


「シーアさんですか? 社長が拾ってきたんですよ。あぁ、あれでも言葉がうまくなったんですよー」

「拾って来たって……、社員じゃないのか?」

「そうですねぇ。元々社員は一人もいませんから。社員と言えば社員なんでしょうけど」

「ダファーは違うんだ?」

「わたしは、一応ハンターですから。これはバイトみたいなもんですよ」

(いや、論点が違うだろ)


 耐えきれなくなって、フェリオが言葉を挟んだ。


「唯一の社員が、あんなんでいいのか?」

「それはヒドいですね。言葉を話せないだけで差別ですか?」

「客商売で仮面かぶってるのはいいのか?」


 そうなのだ。シーアは顔の上半分をすっぽりと白い仮面で覆っていたのだ。


「なんでも、未婚の女性は人前で顔を見せてはいけないらしいです」

「どこの地方の風習だ」


 などと言っているうちに、三人はドアの前で立ち止まった。


『ただいま おこもりちゅう』


 気の抜けるような丸文字で書かれたプレートに、フェリオがちょっとゲンナリした。


「マックスさんのお手製かな」


 思ってもみない言葉に、ギョッとしたフェリオが隣を見た。


「そうですよー。あの人の趣味は『工作』ですから」


 さらに目を丸くする約一名を横目に、ダファーはプレートについたノッカーを握った。


コンコン


「おいよ」


 中から億劫そうな声が聞こえた。


「リジィさんと、フェリオさんが来てますけど、会いますか?」

「会うわけねーだろ、追い返せ」


 即答で拒否されたにも関わらず、ダファーがドアを開けると、安っぽい木の机で何かを書いていたマッチョがぎろり、と睨んだ。


「おい、執筆の最中に入るなって、あれほど言ったろ」

「そんなの知りません。あとで好きなだけ巨大怪魚でも人面象でも足が五本ある犬でも捏造してください」


 あっさり言い放って、ダファーは二人に、彼の座っている机から少し離れたソファーに座るように勧めた。


「ちっ。しかたねぇな。おい、ダファー。ちょっくらシーアにお茶頼んで来い」

「とっくに頼みました」


 スパッと話題を切り捨て、「どうぞ」と二人が座ったソファーの向いの席を示す。


「時間稼ぎしようったって、無駄ですよ」

「……お前、どんどん可愛くなくなってくるな」

「誰かさんみたいには、なりたくありませんから」


 ダファーはにこにこと笑顔のままで席を指し示した。

 その緊迫した空気の中で、本来客であるはずの二人が居心地悪そうに身じろぎをする。


コンコン


「シツレイしまシタ」


 そう言って入ってきたのは黒髪の仮面の女性。手にしたトレイの上には、紅茶の入ったカップが五つ乗っている。


「シーアさん。『失礼します』」


 とりあえず、訂正させるダファー。


「ハイ。シツレイしマス。……シャチョサン。ドウしたでスカ?」


 見れば、マックスは机の上に突っ伏して震えていた。どうやら今の間違いはツボに入ったらしい。


「いや、なんでもない。……っ!」


 平静をつくろうものの、また笑いの揺り戻しが来たのか、口を押さえる。


「あー、社長のことは、ほっといていいですから。シーアさん。こっちへ」

「ハイ、だふぁサン」


 シーアはトレイに乗ったカップを二人の前に一つずつ置く。

 その間にダファーが一つをテーブルの上に。一つを片手に持った。そしてトレイに残ったカップはひとつ。


「シーアさん」

「ハイ、ワタシのでシタ」


 最後の一つを手に持ち、ふーふー、と吹くシーア。

 人が五人いて、カップが五つあるのだから正しい。そう信じて疑わないようだ。

 ダファーは軽いため息を吐き出すと、マックスの方に振り向いた。


「社長。いい加減にしないと、わたしがあることないこと話しますよ」

「あー、いいやそれで」

「社長の初恋話でもいいんですか」

「……すぐ行く」


 よほどマズい話なのか、マックスはすぐさま自分の机を離れた。シーアはマックスがソファーに座るのを見て、自分は全員がかけるテーブルの『お誕生席』に陣取った。


「シーアさん。ちょっと難しい話になるかもしれないので、聞き取り練習は無理ですよ?」


 きょとん、と目を丸くしたシーアは「そうデスか」と返事して、立ちあがろうとした。

 それを見て、ホッとしたのかフェリオがお茶を口に含んだ。


「んで、エレーラがディアナだって知っちまったんだってな」


 そのマックスの言葉はあまりに残酷なタイミングだった。

 フェリオが、ぶぶーっ、とお茶を吹きだす。真正面に座っていたダファーは、シーアが片付けようとしていたトレイで、さっとガードした。


「汚いですねぇ。―――シーアさん。お茶のお替りお願いします」

「ハイ、だふぁサン」


 テーブルを拭くダファーからトレイを受け取り、フェリオのカップと共に退場するシーア。


「……なんだ。違うのか?」


 マックスは何もなかったかのように、話を続けている。


「違わねぇ。……だけどな、オレは正義新聞が一枚か噛んでるなんて思っちゃいなかった」

「僕も話す気はなかったのに。マックスさん、いいんですか?」


 一方のリジィは平然とお茶を飲んでいる。そんな彼を、フェリオがギッと睨みつけた。


「……リジィは、お前は知ってたのか?」

「僕? いや、一晩考えてみたら、だいたいは」


 事前に腐るほど材料はあったけれど。


「……ってことは、警視正もグルか」


 チッ、と舌打ちするフェリオ。自分だけ、のけものになったみたいでイヤだった。


「そんでー? お前らどーすんだ? これからもエレーラ追うのか?」


 左の耳をほじくりながらマックスが尋ねる。


「……」

「……」


 マックスは左手を自分の目の前に持ってきて、まじまじと見つめた。


「あ、でっけぇ耳クソ」


 ピン、と弾く。


「……えぇと、フェリオが何も言わないなら、僕から先に用事を済ませてもいいのかな」

「どーぞ」


 フェリオは上を見上げて答えた。この体勢が、彼独特の考えるポーズなのだろう。


「僕がここに来たのは、姉さんに渡して欲しいものがあるからなんです」

「へ~」


 リジィに気の抜けた返事をするマックス。


「さすがに、化粧道具を忘れて行かれても困りますんで」

「ほ~」

「次に会う時にでも、渡してください」

「ふ~ん。……んで? お前はどうすんだ?」


 机の上に出された口紅を一瞥し、マックスが尋ねた。


「僕はサミーさんの所に行きます。もう一度、誰かにシゴいてもらいたいのと、……セゲドに近いので」


 セゲドという言葉に、マックスはにやり、と笑みを浮かべた。


「つまり、待ち受けるってことか」

「そういうことになります。全部が終わった後の姉さんに、僕は会いたいから」

「別にそういうことならいいけどよ、サミーのヤツは、法要が終わるまで戻らねぇと思うけどな」

「それまでは、ハンターをやってます。今日の午前に、サミーさんにも同じ内容の手紙を出しました」


 そうか、と頷くマックス。


コンコン


「シツレイしマ……ス」


 過去系をなんとか押さえたシーアが入ってきたのは、丁度その時だった。


「オチャでス」


 トレイに乗せてあるのは二つのティーカップ。そしてティーポット。

 シーアはソファーではなく、マックスの机の方へ行くと、片方のカップにとぽとぽとお茶を注いで持ってきた。


「ありがとさん」


 受け取り、フェリオは全員の顔をうかがってからお茶を口に含む。


「シーア、こっちがディアナの弟だ」

「んごっ……」


 またもや絶妙のタイミングのマックスの言葉に、再びフェリオが噴水を―――


「んんっ」


―――吹きだすように見えたフェリオは、すんでのところで液体を全て飲み下した。


「……ちっ」


 堂々と舌打ちをするマックス。シーアが余分なカップを持ってきたのは、このマックスの行動を予想してのことだったが、どうやらムダになったようだ。


「っっ危ねぇなぁ。……んで、ディアナはここに来たんだな?」

「昨晩……と言っても夜明け前だけどな。新しい顔と名前作って出ていった」

「新しい……顔と、名前?」

「そうだ。てめぇらにツラ割れてるんじゃ動きにくいと思ったんだろ。エレーラとして活動し始めた時もキャラ変えたんだから、慣れたもんだ」

「あぁ、だから……なるほどな」


 フェリオは頷く。ハンターとして出始めた頃の「ディー」と、弟を伴うようになってからの「ディアナ」と。


「ま、どれもこれも、結局はディーだけどな。これがまたかわいーんだ」

「社長。話が逸れてます」


 溺愛する妹のノロケになりそうな路線を、ダファーが素早く止めた。


「あぁ、すまんな。……んで、フェリオっつったか? お前はどーすんだ?」

「そんなの決まってるさ。オレはエレーラを追う。だから―――」


 だから、と言って、フェリオは口を閉ざした。だが、思いなおしてすぐに続ける。


「だから、オレにエレーラのターゲットの情報を提供してくれ」

「……! ゴホッ、ゲホ、ゲホ」


 ゲホンゲホンとむせたのは隣に座るリジィだった。

 対して、マックスはにやにやとフェリオを見る。


「へ~。なかなかいい根性してんじゃねぇか。俺にディーが捕まる手助けをしろっての?」

「あぁ、そうだよ。悪かったな。残念だけど、オレにゃぁディアナがエレーラになって何をしようとしてんのか分からねぇからな。どっかから情報もらうしかねぇんだよ」

「捕まえて、どうする? ヤードに突き出すか?」

「ヤードになんか渡すわきゃねぇだろ。今度こそ捕まえんだよ。ディーも、ディアナも、エレーラも、ぜーんぶひっくるめて、な」

「へぇ~。なるほどねぇ~」


 マックスは笑みを浮かべたままでじろじろとフェリオを頭のてっぺんからつま先まで値踏みするように見た。


「おい、シーア」

「ハイ、シャチョサン」

「……向こうの部屋に鎖があったろう。アレ持ってこいや」

「! ……クサリ、でスカ?」


 シーアの目は、どうしてそんな物騒なものを、と語っている。


「そう、ペネローペのじーさんが置いてったタイマン用」

「ハイ。ワカりまシタ」


 トテトテと急ぎ足で部屋を出て行くシーアを見送り、マックスはフェリオに視線を移した。


「さて。……そうだな、ダファーと闘って、勝てたら情報流してやるよ」

「社長!」


 ダファーがすごくイヤそうな顔で抗議した。


「なんでわたしがやるんですか。そういうことがやりたいなら、社長がやってください」

「ハンデだよ。オレがやったらつまんないじゃん」

「……おい、ダファーと闘って勝てばいいんだな?」

「おぉ? もしかして楽勝、とか思ってねぇか?」


 悪いか、と答えるダファーに、マックスが意地悪な笑みを浮かべた。


「これだから、ハンターのランクでしか物を見れねぇヤツはダメなんだよ」

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