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ダブルフェイスハンター  作者: 長野 雪
第1話.ハンターというお仕事
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4.鉱山町エッフェ

「リジィちゃん、ごくろうさまぁ~」


 情報収集から戻って来たリジィにディアナが声をかけた。

 やや疲れた視線を向ければ、姉はフリフリのスカートのままでベッドに腰かけている。


「姉さん、確か一緒に宿を出たはずだったよね」


「もちろん、そうよぉ?」


「ちなみに姉さんが帰って来たのはいつ?」


「えぇっとぉ、帰って来てからぁ、お茶飲んでぇ、ちょっとウトウトしてぇ……。あっ、そういえばねぇ、すっごぉくおいしいランチの店を地元の人に教えてもらっちゃったのよ~。明日にでも行ってみようねぇ?」


「……うん、そうだね」


(一度ぐらいは、僕より遅くに戻ったっていいんじゃないかな)


 とはいえ、別にディアナが情報収集をしていないわけではない、むしろリジィよりも有益な情報をゲットしてくることが多いのだ。


(姉さんは、女の役得、って言うけどさ……)


 リジィは、大きくため息をついた。


「とりあえずぅ、評判は最悪だったみたいねぇ?」


 弟の為にお茶をいれながら、ディアナは世間話でもするかのように切り出した。


「うん。精錬技術の提供の代償として、ルグラン王室に渡すっていうことになってるけど、……結局は町長の足固めに利用されるだけみたいだね」


 ここエッフェは北にあるフェルノ鉱山によって発展した、典型的な鉱山町だ。だが、豊富な鉱物資源を精錬する技術はこの町になく、鉱物を売ってその加工品を買うような一方的なマイナス貿易しか選択肢はなかった。そこに今回のルグラン王室の申し出である。町としては、諸手を挙げて歓迎すべき事態に思われるが―――


「町のシンボルみたいなスタールビーだもんねぇ……。いくら鉱山技術のためだって言ってもぉ……」


「どうやら精錬技術の習得権利も町長の息のかかった所にしか行かないみたいだしね」


 ディアナの差し出したティーカップを受け取ると、リジィは代わりに紙束を差し出した。


「はい、ついでにヤードに寄ってきたよ」


「あ、ありがとぉ~」


 それを受け取ったディアナは自分の荷物から分厚いファイルを取り出した。

 新しい悪党が生まれ、そして捕まっていく中で、誰がいくらで売れるのか、というのはハンターにとって生活を左右する情報である。ヤードやギルドで手に入る手配書をチェックするのはディアナの役割だった。


「あ、この人ぉ、またぁ、賞金上がってるぅ」


 いつ頃、どんな罪を犯し、どのように賞金が上がったか、どのハンターにいつ捕まったかなどなど……間接的にそれは商売敵でもある同僚ハンターの情報にもなりうる。


「そういえば、フェリオがラム・レザーロープを捕まえたみたいだね」


 面白くなさそうにリジィが呟いた。自分の姉を追っかけまわすフェリオははっきり言って要注意人物である。しかも、それが自分よりも強いハンターだということが、どうも、しゃくに触るのだった。


「えぇ~? レザーロープ捕まっちゃったのぉ? もう少しでランクBに上がるかと思ってたのにぃ……」


 フェリオのバカぁ、と泣きながらファイルをめくり、ラム・レザーロープの項に『捕・フェリオ・ドナーテル』と書き込む。


「全く、フェリオの奴。リベルトで金受け取ったらしいしね。性懲りもなく、また追っかけて来てるのかな?」


 万が一にでも出会ってしまうことを考えると、リジィの頭が痛くなった。姉に近付く男の中でも、一番しつこいヤツだ。


「フェリオかぁ……。まぁ、そうそう会わないわよねぇ? リベルトからずいぶん離れてるんだしぃ……」


「―――あんな奴のことよりも、姉さん。もし、エレーラが来なかったらどうする気? それに、いつまでここにとどまるつもりなのさ?」


 ディアナは、今度は『家計簿』と丸っこい字で書かれたファイルを取り出した。


「んーとねぇ、ここが一泊3千イギンだからぁ……。三日から四日ぐらいかなぁ? 明日が丁度三ヶ月目だしぃ……」


 丁度、というのはエレーラのリフレッシュ休暇のことである。


「もし、ここじゃなかったら?」


「んーとぉ、そんなこと考えてもぉ、ムダだしぃ……」


「姉さん! エレーラ捕まえたいのは分かるけど、それじゃあまりに無計画じゃないか!」


 思わず怒鳴ってしまったリジィに、ディアナの顔がゆがむ。


「リジィちゃん、怒ってるぅ……」


 今にも泣き出しそうな姉に、リジィが慌てた。


「いや、怒ってるんじゃなくて、その……」


「じゃぁ、明日ぁ、そのことは考えよぉ?」


 ディアナは座っていたベッドにそのまま倒れ込んだ。


「姉さん!」


 ぼふっと耳元で鳴る枕の向こうで、弟の絶叫が響いた。

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