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ダブルフェイスハンター  作者: 長野 雪
第6話.戦士ではなく怪盗として
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2.突撃!謎たくさんの新聞社

―――正義新聞の実態は意外に謎に包まれている。社長の他に社員のいないことや、こうしてエレーラを追うように移動していることなど、まったく知れ渡っていない。彼自身、姉から話を聞いていなければ、知ることもなかっただろう。


「じゃぁ、社長しか記事書いてねぇのか?」


 彼の隣で歩く男――フェリオが問いかけた。


「いや、社長と、何人かの雇われハンターが記事を書いてるみたいだよ。ただ、各地から情報が流れてくるみたいだけど」

「おい、そんな大きなネットワーク持ってるんだったら、何も無駄な記事ばっかりの新聞なんて発行しなくても」

「しょうがないだろ。各地っていうのは各地の隠居した人間なんだから」

「……」


 フェリオが小さな声で「シルバー人材センター」と呟いた。リジィはさらりと聞かなかったことにして切り捨てる。


「お年寄りって、意外とお金とヒマを持て余している人が多いらしくてね、行く先々の出張所はその人達が用意することが多いんだって」


 いつだったか姉から聞かされた情報をそのままフェリオに話す。


「……なるほどな。だからエレーラを追いかけて行けるってわけか」


 社長一人だけでは、一見すると零細企業。だが、その実態は不特定多数のじじばばーずのヒマ潰しの産物だった。


「さて、ここだね」


 公園で聞きだした出張所の前でリジィは足を止めた。どこにでもある家の離れだ。


コンコン


「あー? ダファーか? 開いてるからとっとと入って来いよー」


 中から聞こえた声に、2人はちらりと視線を交わした。


「マックスさんですか。リジィです。お邪魔してもいいですか?」


 しばらくの沈黙。ガタン、ゴトゴトという重いものを動かす音だけが微かに聞こえてくる。


「……いいぜ、入んな」


 その言葉にリジィは軽い深呼吸をしてノブを回した。眼前に広がるのは紙束の洪水。その半分が白紙だと知って、フェリオがなるほどなと頷いた。


「なんだ、知らねぇのがいやがるなー。それがダファーの言ってたディーのストーカーか?」


 ちらりと2人を確認すると、奇跡的に何も乗っていないテーブルに大きなポットとコップを置いた。いや、テーブルの向こう側に、何かいろいろと書き込まれた紙がばさばさと落ちているのを見ると、ついさっきまではそれらの置き場所だったらしい。

 マックスと呼ばれた男は、体格に恵まれたフェリオのさらに上を行く大柄な男だった。だが、不思議と威圧感を感じさせず、むしろ飄々としていて掴み所がない。


「まぁ、いーか」


 文句のひとつでも言われるかと身構えたフェリオの予想を裏切り、マックスは紙束の積まれた自分の机に戻った。


「えっと、失礼します」


 リジィはこの乱暴な対応に慣れているのか、テーブルの上のポットから自分でコップに注ぐ。すると、ふんわりと紅茶の香りが広がった。


「んで、ディーの手がかりでも探しに来たか」


 いきなり直球な問いに、「はい」と頷くリジィ。


「ギルドよりよほど頼りになりますから」


 淡々と続く2人の会話に、自己紹介する間を逸したフェリオは所在なさげに立ったままで視線を泳がせた。


「残念だけどよ、俺んトコにも情報はねーわ。ダファーが今2人を探しに行ってるとこだから、なんかあったらそっちにも走らせる。これでいーか?」

「はい、そうしていただけると助かります」

「まー、かわいい妹弟子のためだかんな。―――あぁ、そうだ。今言える情報があったかなー」


 え、と聞き返すリジィに、マックスはガリガリと何か書きつけながら続けた。


「どちらか1人は確実に生きている」


 それがどちらかは分からない、そういう意味だった。むろん、マックスは『ディアナのフリをしていたダファー』が生きていることを知っている。だが、それは明かせない。どちらにしても、ディアナ本人の安否はまだ分からないのだ。


「……そう、ですか」


 リジィはコップの中の液体をぐいっと飲み下した。


「どうもありがとうございました。忙しいところお邪魔してすみません」

「いや、いいってことよ」


 くるりと背を向けたリジィに、ひらひらと手だけで見送る。ガリガリと何かを書き続けるマックスをやや不審な目で見つつ、フェリオもきびすを返した。


『ディーにコナかけてる野郎がよくもノコノコと』

『このストーカー』

『ディーに手ぇ出したらぶっ殺すぞ』


 などと書きつけているとは夢にも思わず。

 部屋に一人残ったマックスは、短く息を吐きだす。

 突然の来訪者2人が遠ざかっていく足音が聞こえなくなるまで待って、その名を呼んでみた。


「ディー……」


 感傷めいたその呟きに「はーい」と呑気な返事が聞こえた。


「あれ、バレちゃってた? ちゃんと気配は消したはずなんだけど」

「おまっ、ディー!」


 イスを蹴り飛ばして立ちあがるマックスに、「あれ、偶然だったの?」と声だけがからかうように響いた。


「さっき、新しい予告状出してきたトコ。とりあえず報告だけは、って思って」


 何故か姿を見せようとはしない彼女に、思い当たるところがあるのかマックスは苦笑を浮かべた。


「どうせお前のことだ、今夜……とか言うんだろ」

「あ・た・り。こんなにコケにされて、黙ってるわけにもいかないでしょ」

「ディー、ケガは大丈夫なんだな」

「ダファーの方が心配よ。ちゃんと戻って来た?」

「お前に岸まで押し上げられたと言ってたが、……それを確認しに来たのか」

「そうね、あれで死なれでもしたら後味悪いし、困っちゃうし」


 マックスは落ち着き払って窓に近寄った。


「いつからいた?」

「リジィちゃん達が来る前に、ね」


 窓の外を見上げたマックスの目に、風に流れる金髪が映った。


「手当てしてやるから、下りて来い」

「……」


 返事はなかった。


「ディー?」

「やめとくわ。だって、問答無用で昏倒させられた挙句、起きてみたら社長が全部やっちゃった後だった、って言うメに遭いたくないもの」


 そういえば、そういうこともあったかもしれないと、マックスは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「一人だけで、やるってーのか」

「元々、アイヴァンの話だもん。あたしがやるの」


 揺らぎそうにない決意を秘めた言葉に、マックスは大きなため息をついた。


「ケガの方は、本当に大丈夫なんだな?」

「もちろん。ちゃんとできるわ。……ダファーにもサポートは要らないって言っといて」

「あぁ、元々正体を隠すためのサポートだからな。行方不明の人間には必要ねーし、アレも、今夜はさすがにムリだろ」

「それを聞いて安心したわ。それじゃ、どっかり座って竪琴でも待っててね」


 タンと屋根を蹴る音がしたのを最後に、声は聞こえなくなった。


「……ま、しゃぁねーか」


 よほど怒ってんだなー、と鼻歌混じりに呟くと、彼は自分の机に戻った。とりあえずは、次回の新聞記事を書かなくては。

 マックスの持ったペンがゆっくりと字を綴りだした。


『非道! 三角錐の町に来た悪魔』


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