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彼女の名前は清水 結。
男の名は茅切 駆というそうだ。
二人は交際していて、この日は動物園で
デートをする予定だった。
現地集合で、正午に待ち合わせをしていた。
20分前に着いた結は、駆にメッセージを送る。
結【少し早く着いちゃった。待ってるね】
しかし、時間を置いて確認しても
一向に既読にならない。
結「寝坊かな…事故にでも遭っていたら…」
心配になった結は電話をかけた。
三回かけても応答がない。
四回目に電話をかけると、
呼び出し音が止まった。
結「もしもし?駆くん?」
結が電話口に話しかけると、
プツンと電話が切れた。
結「え…」
そしてすぐに、メッセージが届いた。
駆【ごめん、寝坊した】
結は無事だったことに安心して返信をする。
結【事故に遭ってたらどうしようって心配した。】
駆【ごめん】
結【先に中に入って待ってるから、気をつけてね】
駆の家から動物園までは一時間程かかる。
結は一人で先に入園し、
動物を見て回ることにした。
レッサーパンダやキリン、チーターなど
色んな動物を見て回った。
どのエリアへ行っても、
親子連れやカップルばかり。
本当は二人で見るはずだったのにという思いが
段々強くなっていく。
結は自分だけが取り残されている気分になった。
メッセージの画面を確認すると、
既読になってはいるが、返信はない。
きっと、急いで向かっているんだと信じて
返信を待つが、連絡は一向に来ない。
気付けば閉園時間の17時まであと30分。
一緒に食事を取ろうと空腹でも何も食べずに
我慢していたが、長時間我慢をしすぎて
空腹を通り越してしまい、何も感じなかった。
諦めて出口に向かおうとしたその時
結のスマホが鳴った。
結はすぐにメッセージ画面を確認する。
すると、駆からこんな返信が来ていた。
駆【ごめん。今日行けなくなった】
結は画面を開いたまま立ち尽くす。
結「何のためにお洒落したんだろう…」
涙を流す結の傍で、バサッという音がした。
結が横を向くと、オスの孔雀が羽を広げている。
その美しさに、一瞬で魅了された。
結「綺麗……孔雀、初めて見た」
羽を広げて歩く孔雀を写真に収め、
孔雀について検索をした。
すると、孔雀は幸運を齎すという記事が
いくつも出てきた。
結は孔雀を見つめ、語りかけた。
結「私も…幸せになれるかな。今日みたいなこと、
一度や二度じゃないの。もしかしたら別に彼女が
いるのかもって思っても、怖くて聞けないんだ。
馬鹿だよね…。いつか私も、他のカップルみたいに
笑顔であなたに会いに来ることが出来るかな…」
思いを伝えている最中、
涙がどんどん溢れて止まらなくなってきた。
孔雀はバサッと羽を広げ直して
じっと結を見つめる。
結は、帰宅を促す放送が流れるまで
孔雀の傍を離れなかった。
結の記憶は、ここで再生が途切れた。
美青「かわいそう…きっと奥さんがいることも
知らないよ、こんなに健気に待つなんて…」
叶実は険しい顔で駆の元へ向かう。
叶実「右肩、痛いでしょう?生霊が乗っているわ」
駆は驚いた顔をして右肩に手を置く。
駆「そうなんです!凄い!見えるんですか?
一週間前から右肩が痛くて、重いんです…」
叶実「何か思い当たることはない?例えば…
奥さん以外の女性を悲しませた、とかね。
あなたに憑いてる人、若い女性だから」
駆「そんな…ほ、ほら俺、結婚してるし…」
美青「数週間前、この子とここに来ましたよね。
私覚えてますよ。二人で絵馬を書いてました」
妻「…その絵馬、見せてもらえます?」
美青は妻の紡を連れて絵馬を見せに行く。
そこにはしっかりと〔駆〕と名が書かれた
絵馬があった。
そして、
〔結と一緒にいられますように)と
大きな文字で書かれていた。




