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闇吸蝶図鑑  作者: 夜宵
27/41

027



土砂降りだった空は、梅雨の時期には珍しく

雨が止み、黄昏時を迎える。



夕緋は優子の待つ家に向かって走る。



自分の名の由来になった空を背負いながら

走っていると、少し先に女性の姿が見えた。



夕緋にはそれが誰だかすぐに分かった。




夕緋「母さん!!!」



優子は聞き覚えのある声に、

驚いた様子で横を向いた。




優子「夕緋!今日は帰らないんじゃなかったの?」




夕緋は優子の前で走る足を止め、息を整える。




夕緋「母さんこそ…何でここにいるの?」




優子「ふと窓の外を見たら、昔、この場所で見た

綺麗な空の色にそっくりで…つい来ちゃったのよ」



優子は優しい眼差しで空を見上げる。




夕緋「実は…今日帰らないって言ったのは、愛架に

会うからだったんだ。さっき会って話をしてきた。


事実がどうであろうと、俺の母親は母さんだけだ。

もう俺達には関わらないでほしいって伝えたよ。


世界一憎い人と会うんだ、帰って暗かったりしたら

母さん、心配するだろう?だからどこかに泊まって

気持ちを切り替えて、明日帰ろうと思ってた。


でも、やっぱりやめた。今日この夕陽を母さんと

一緒に見ないと、きっと後悔するから」




優子「夕緋…!」



夕緋は涙ぐむ優子に語りかける。




夕緋「母さん、俺は母さんに育てられて本当に

よかったよ。年齢を見て、もしかしたらって

心のどこかでわかっていたけど、友達に母さんの

年齢を言ったら驚かれるくらい努力してくれて、

寂しいと思うこともなく、何不自由なく俺を

ここまで育ててくれた。今日までありがとう。


次は俺の番だ!大学出て就職したら、沢山

サプライズするから、楽しみにしていてね」




優子はあの日のように声をあげて泣いた。



優子の人差し指を握っていたあの小さな手は、

大きく成長し、優子の肩を優しく支えた。











夕緋が家を出る当日。


親子で叶望神社へ挨拶にやってきた。




夕緋がこそっと叶実に話しかける。


夕緋「叶実、ありがとな。あれ、叶実の力だろ?」



叶実「さぁ、何のことかしらね」



夕緋「またまた~、叶実が優しいのは知ってるから」



叶実「うるさい。いい?連絡したり時々実家に帰って

親孝行するのよ。優子さんに心配かけるようなこと

したらタダじゃおかないからね。わかっているの?」



夕緋「わかってるって、俺、そんなに信用ない?」



叶実「ええ。今のところ信用ゼロよ」



夕緋「それが引っ越す幼馴染にかける言葉かよ…」




優子と美青は、二人の掛け合いに笑っている。



飛行機の搭乗時間が迫り、

親子は笑顔で手を振り、帰っていく。





美青「そういえば…優子さんの記憶、消えたの?

蝶が吸い取って夕緋さんに注いだから…」




叶実「あぁ…言ってなかったけど、コピーみたいに

記憶を消さない方法もあるのよ。嫌な思い出に

苦しめられてない限り、記憶を消したりしないわ」




美青「よかった…消えちゃったかと思った…」




叶実「消さないわよ、あんな大事な記憶を…

何なら、もし優子さんが認知症になった時の為に

コピーを取っておきたいくらいだわ」




美青「大丈夫、絶対忘れないよ」







夕緋の移動に合わせたかのように梅雨は明け、

蝉がそこらじゅうで鳴いている。




夕緋は、新天地へと巣立っていった。




夕緋が乗る飛行機に向かって

手を振り続ける優子。




その左手には、夕緋から見送りの際に貰った

オレンジと赤のガーベラの花束が握られていた。










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