022
そして、日曜日。
琥珀をペット用カートに乗せて
藤の花がある場所へと向かった。
電車とバスを乗り継ぎ、
植物園に辿りついた。
入場して少し歩いたところに、
藤の花のトンネルがあった。
美青「琥珀、ついたよ。見てごらん。
ここだよね。思い出の場所」
カートから琥珀を抱き上げて、
藤の花がよく見える場所に移動する。
琥珀は瞬きも忘れて花を見上げていた。
少し後ろから見ていた叶実は
一緒に連れてきていた蝶に
コソッとお願いをした。
叶実「今、琥珀が約束を果たすために
ここにいることを証明してあげたいの。
この瞬間を、私の耳から吸い上げて」
蝶は、叶実の左耳に止まり、
花の蜜を吸うように口吻を耳の穴へ向けた。
羽の色は、あの時と同じ
オオムラサキの姿に変化した。
叶実「ありがとう…琥珀の気持ちを
飼い主さんに届けてきてちょうだい」
おばあさんは退院して、施設へ移ったことを
鈴木さんから連絡をうけていた。
叶実はその際、施設名を聞いておいたのだ。
蝶は叶実の手鏡の中から施設に入る。
蝶は一部屋ずつ回っていき、
おばあさんを探して飛んでいく。
五つ目の部屋に入ると、そこには
藤の花のトンネルで琥珀と撮った写真を
悲しそうな顔で眺めるおばあさんがいた。
蝶は、おばあさんの右耳に止まり
叶実から見た景色を吹き込んだ。
おばあさんは驚いた顔をして、
すぐに涙を流した。
「琥珀…!あの時の約束、忘れないで
覚えてくれていたのね…!!」
すぐさま車椅子に乗り、庭へと向かう。
エレベーターのドアが開くと、
偶然面会に来た鈴木さんが居た。
鈴木さんに事情を話し、施設の門の
近くまで車いすを押してもらった。
そして
「琥珀ー!!!」と大声で叫んだ。
その声は、何故か叶実達の元へと届いた。
叶実「……え?」
美青「今、琥珀って…」
木々の隙間から隣の建物の名前を見ると
玄関に介護施設と書かれている。
植物園とおばあさんが入所した施設は、
隣り合わせだったのだ。
彼女は、いつか最期を迎えるその時は
思い出の地を見つめて人生を終えたいと願い、
この施設を希望していたのだ。
琥珀は、おばあさんの声だとすぐに気付き
足をばたつかせ、声のする方向を見ている。
美青と叶実は、急いで琥珀をカートに乗せて
施設へと向かった。




