021
琥珀が神社に来てひと月が経ち、
山は紫色の装いを始めた。
琥珀はこの頃から、
窓の外を眺めることが増えた。
美青「こーはくっ。何見てるの?」
琥珀は美青の顔を見るが、すぐに
窓から見える山へと視線を戻す。
叶実「藤の花、よね。飼い主さんとの
約束を、この子はちゃんと覚えてる」
美青「じゃあ今週の日曜日、藤の花を
見に約束の場所に行ってみる?」
叶実「あの場所を知ってるの?それに
行っても飼い主さんには…」
美青「それでも琥珀は行きたいと思う。
会えなくても、思い出の場所だから。
あれからずっと調べてたんだー。やっと
見つけたよ!少しだけ距離があるけどね」
叶実「…琥珀、どうする?行ってみる?」
叶実の問いに、琥珀は
ニャー!と力強く鳴いて答えた。
その日の帰り道
美青がコンビニに寄ると、
すれ違った男に違和感を覚えた。
勢いよく振り返ると、男の背中には
【●●市消防局】という文字が
書かれていた。
時折左肩を気にしながら歩いている。
美青は跡を追い、男が車に乗って
正面を向く瞬間をじっと待った。
美青「あの顔…やっぱりそうだ…」
すぐにスマホを手に取り、
叶実に電話をかけてこう言った。
美青「あのね…琥珀の家に侵入した犯人、
消防士だった。飼い主さんが運ばれた時に
琥珀のことを知ったんじゃないかな。
まだコンビニの駐車場にいるよ」
叶実「間違いないのね」
美青「私は一度見たら忘れないわ」
すると、目の前に黒い蝶が現れた。
叶実が鏡から送り込んできたのだ。
叶実「男の乗る車を教えてあげて。
ついて行かせるわ」
美青「わかった、ありがとね。」
美青は蝶に男の車を教える。
蝶は、僅かに開いた窓から
さっと侵入して身を潜めた。
蝶の身を案じながら、
男が駐車場から走り去るのを見届ける。
美青「人を守る肩書きを背負っておいて
私欲に利用するなんて…許せない」
美青は、車体が見えなくなるまで
じっと睨みつけ続けた。




