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闇吸蝶図鑑  作者: 夜宵
2/13

002


未舞が部屋に来るなんて、何時ぶりだろう。


数年以上、会話もまともにしてない状況で

何を話しに来たのだろう。


訪ねてきておいて一言も言葉を発しない未舞に

痺れを切らし、声をかけた。



美青「部屋に来るのは久々だね。どうしたの?」


今まで冷たくされてきたことを、まるで

気にしていないかのように声をかける。


その様子を見て未舞は驚き、泣き出した。



美青「お姉ちゃん…大丈夫?」



机からティッシュの箱を取り、未舞に差し出す。

未舞は、美青の腕ごと手で払いのけた。



美青はジンジンと痛む手首を抑え、

涙目で未舞を見た。



美青「痛いよ…何なの?何しに来たの?」



未舞「どうして…どうしてそう言わないのよ!」



美青「え…?」



未舞「毎日冷たく当たるのに、何で怒らないの?

私は…美青が何でも出来て褒められているのが

羨ましくて、悔しくて…妬んで冷たくしてるのに。

もっと怒ればいいじゃない!怒りに任せてさ。

八つ当たりするなよ!ふざけんな!って。

何で何も言わないの…気にしてない素振りを

されたら、余計に惨めになるじゃない…」



未舞はそう言うと、

泣きながら父のゴルフクラブを逆さに持った。



このままでは殺される



美青が瞬時に察したが、同時に

やっと開放されるんだ、と思った。



大声を上げながらゴルフクラブを持って

駆け寄ってくる未舞を見て、

美青は静かにその時を待った。



その時、二人の間を割くように

白い蝶が飛んできた。





白い蝶は、美青が負傷した手首に止まった。


美青「この蝶…見たことがある……」



見覚えのある蝶を見て、遠い記憶を辿った。




あれは未舞が五歳、美青が三歳だった春。


この頃はまだ姉妹の仲が良く、一緒に遊んでいた。



家族で花見に出かけた日、二人は

満開に咲く桜の木の下で追いかけっこをしていた。



地面には、菜の花の黄色い絨毯が広がっている。



未舞「美青ちゃん、お花!綺麗だね!」



美青「うん!とっても綺麗!」



菜の花を見ながらおしゃべりしていると、

白い蝶が止まり、蜜を吸い始めた。



未舞・美青「ちょうちょだ!!」



蝶が逃げないようにそっと近付いて見ていると

後ろから足音が聞こえてきた。



未舞より少し年上くらいの男の子が、

虫かごを首から下げ、

網を持ってこちらに走ってくる。



男の子「いた!さっきのちょうちょだ!!

捕まえてやるー!」



美青は蝶の前に立ち、両手を広げた。



美青「だめ!捕まえたらだめだよ!ちょうちょは

お花を探して飛ぶのが好きなんだから」



男の子「何だよ!どけ!捕まえさせろよ!」



美青「絶対にだめ!ワンワン連れてくるよ?」



美青達は、飼い犬のセントバーナードを

一緒に連れて来ていた。



大人しく賢い犬で、決して襲ったりしなかったが、

見た目の迫力に驚いた男の子は、逃げていった。



蝶は、美青の周りをひらひらと舞った後、

鼻先に止まってみせた。



未舞「うわぁ!美青のお鼻に止まってる!

ありがとうって言ってるんだよ!」



美青「えへへ。どういたしまして」



未舞「大きくなったら助けてくれるかもね。

鶴の恩返しみたいに」



美青「鶴の恩返し?」



未舞「美青はまだ知らないよね。帰ったら

ねぇねが絵本を読んであげる!」



美青「うん!ねぇね、だいすき!」






美青の頭の中に懐かしい記憶が蘇り、

仲が良かった頃のままでいられたら…

そんな複雑な気持ちになり、涙がこぼれる。



美青「まさか…あの時の蝶じゃないよね?

随分昔の話だもの。蝶の寿命は長くないし。

でも、生き写しみたいにそっくりだわ」



白い蝶は、信じて、とでも言っているのかのように

光を放ち、ベランダに向かって羽ばたき始めた。



美青は、生気を失った表情で蝶を追いかける。



未舞「ちょっと、美青!危ない!!」



未舞の制止も空しく、

美青はベランダから落下した。



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