016
翌日
話し合いが行われる予定の16時前
万華鏡部屋に向かおうとした時、
外から駆け寄る音が近付いてきた。
颯空「お姉ちゃん!こんにちは!」
美青「颯空くん!こんにちは。
どうしたの、そんなに慌てて」
颯空「今日、学校をお休みしたんだ。
だけど、夕方にお母さんが学校で
先生達と話し合いするっていうから
気になって…心配で…どうなるんだろう」
不安そうに下を向く颯空に、美青が
何と声をかけようか迷っていると
叶実が颯空に話しかけた。
叶実「今日、お父さんは参加するの?」
颯空「お父さんは、何も知らないと思う。
そんな話したらお母さんを止めるもの。
僕、朝起きたら気持ち悪くて、ベッドから
出られなくてパパと話せなかったの…」
美青「そっか……」
叶実「少年、お父さんがどんな仕事を
しているかわかる?場所とか、何か
わかることを教えてちょうだい」
颯空「お父さんは、美容師だよ!!
お店は駅前にあって、店長なんだ」
叶実「上出来よ、一緒にいらっしゃい」
颯空は叶実に褒められて嬉しそうに笑い、
初めて見る万華鏡部屋に感動している。
颯空「うわぁ…綺麗。キラキラしてる」
美青「今から起きることは、皆に内緒だよ。
お姉ちゃん達との約束ね」
颯空「うん!!!」
叶実は颯空を手招きして、父親の職場を
頭に思い浮かべるように指示する。
目を閉じて思い浮かべる颯空の額に
数分間御札をあて、
その御札を鏡に1周擦り付けた。
すると、鏡に美容師が映し出された。
颯空「あ、お父さんだ!」
颯空の指差す先には、パソコンを
操作する男がいた。
叶実「さぁ、行ってらっしゃい。彼に
今起きてることを教えてあげて」
蝶は叶実の頭上をふわっと舞った後、
鏡を通り抜けて美容室に入った。
父の後ろ側から右耳に止まり、
口吻を耳の穴へ向けた。
昨日の記憶を吹き込まれた父は
ハッとした表情でしばらく固まる。
父「何だ今の…一瞬映った電子時計の日付が
昨日の夕方だったぞ…昨日起きたことなのか?
だから今日、珍しく颯空は学校を休んだのか?
こんな大事な事…何で俺に話さないんだよ…」
そして、テーブルに力強く拳を置き、
怒りで身体を震わせる。
勢いよく立ち上がり、店頭に出ている
スタッフに声をかけた。
父「悪い、息子のことで急用が出来た。
今日はこのまま帰る。後はよろしくな」
店員1「早く帰るなんて珍しいですね!
あとは任せてください!」
店員2「お疲れ様でした!お気を付けて」
父「ありがとう、お先に。お疲れ様」
父は鞄を抱えて急いで車を走らせた。
父「颯空…ごめんな。お父さんに任せろ」
信号待ち、独り言を呟く。
颯空は泣きそうな顔で学校に向かう
父の姿を目で追っている。
15分くらい車を走らせて学校に着くと
職員室へ直行し、話し合いをしている
部屋に案内をしてもらう。
会議室に着き、勢いよくドアを開けると
参加者全員が父の方に振り向いた。
母「パパ!どうしてここに!?」
父「昨日のことは全て聞いた。今、
話し合いはどうなっているんだ」
母「皆さんにお願いしているのよ。
今後は颯空ちゃんを女として接して
もらうようにね」
父「何の為に?颯空は男だ。お前は
性別が男だとわかってからも颯空が
生まれるまでずっと信じていたよな。
もしかしたら…出てきたら女かもって。
こんなことをいつまで続ける?颯空は
髪も服装も何もかも違和感を持ってる。
子供を押さえつけてまで何がしたいんだ」
母「あんな可愛い子いないわよ?睫毛は
クルっと長くて大きい目。スっと高い
鼻にえくぼ。どう見ても女の子よ!!
あの子の可愛さを引き出せるのは、
母親である私だけ。ほら見て?SNSでも
みーんな可愛いって!男に見えないって!」
父「颯空はお前の承認欲求を満たす為の
道具じゃない!いい加減にしろよ!!!
兄貴が二人いる家の末っ子に生まれて
おさがりが男物で辛かったからって…
可愛い服に憧れがあったからってさ、
それを息子で満たすのは間違ってる!
これは…立派な心理的虐待だ。
颯空は俺が育てる。離婚しよう」
母「虐待…?私が?こんなに颯空を
愛しているのに?嫌よ、離婚だなんて。
颯空は私が産んだ子よ!あなたの好きに
させないから!」
父は母を睨みつけて教室を出た。
教師は取り乱す母を宥め、
出席した母親達は虐待だと責めた。
父が帰って行く姿を見て
颯空は慌てて家に帰っていった。
唯一の味方である父と、
二人きりで話しがしたかったのだろう。




