4_ミイロタテハのジレンマ
ある日の放課後
バイトのために神社へ向かう美青。
鳥居が見えてきた時、
シクシクと泣く子供の声が聞こえてきた。
振り返ると、ピンクのランドセルを
背負った小学校低学年くらいの子供が
涙を腕で拭いながら下を向いて歩いている。
美青「大丈夫?どこか怪我したの?」
美青の問いに、子供は下を向いたまま
首を横に振った。
美青「どこも痛くないみたいでよかった。
私、この神社で働いてるの。落ち着くまで
少し休んでいかない?」
子供は、顔を上げてゆっくりと頷く。
美青「私は美青。春菜 美青です。
お名前教えてくれるかな?」
そう言うと、子供の顔は暗くなった。
ランドセルをお腹に背負って
防犯ブザーと共に付けられた名札を
差し出した。
美青の反応を伺うような目で見つめながら。
名札には
【柏木 颯空】と書かれている。
名前を見て、反応を伺う意味を理解した。
ピンクのランドセルを背負った子供は、
腰まで伸びた綺麗なロングヘアに
上下はフリルのついたセットアップ。
靴もリボンが付いた可愛らしい物だ。
一見どう見ても女の子だが、
彼は男の子なのだ。
美青「颯空くん…だよね?」
美青が少し不安そうに声をかけると
颯空の表情はパーっと明るくなった。
颯空「うん!僕、男だよ!お姉ちゃん、
わかってくれたんだね!嬉しい!」
美青は間違っていなかったことに
そっと胸を撫で下ろし、
颯空を神社の中へと招いた。
颯空を神社の休憩所へと連れて行き、
お菓子と飲み物を差し出す。
美青「はい、どうぞ。今お母さんには
電話したから。少し時間がかかるけど
お迎えに来るって。ここで待ってようね」
嬉しそうにお菓子を手に取る颯空だが、
『お母さん』という言葉を聞いた途端
表情が暗くなった。
美青「お母さんと喧嘩したの?」
颯空「ううん、喧嘩はしてない。でも、
僕はお母さんのことが嫌いなんだ」
美青「どうして?優しそうな声だったよ」
颯空「優しいよ。僕が悪いことをしても
怒らないくらい優しいよ。だって、僕が
お母さんの願いを叶えてあげているから」
美青「願い…?」
颯空「僕は、お母さんの着せ替え人形。
本当は青のランドセルがよかったし、
髪の毛も短く切りたい。服だって…
これじゃあ女の子って思われちゃうよ」
美青「お母さんは颯空くんが本当は
嫌だってことは知っているのかな?」
颯空「何回も言ったよ。幼稚園の頃から。
でも、聞いてないんだ。女の子のように
接してくるし、僕を女の子だと信じてる。
お父さんはそれを毎日注意するんだけど
何がダメなんだって言い返すんだ」
美青「もしかして…さっき泣いていたのは
そういうことが関係していたりする?」
颯空「…今日、トイレに入ろうとしたんだ。
そしたら、皆が女は入って来るなって。
隣の女子トイレの入口では、女のフリした
男は入って来ないでって…僕はちゃんと
男なのに。この見た目のせいで……」
思い出して目を潤ませる颯空を見て、
美青は思わず肩を抱き寄せて頭を撫でる。
美青「辛かったね…」
颯空の肩をさすっていると、
女性の声が聞こえてきた。
「すみませーん!颯空の母です!」
美青「颯空くん、ちょっと待ってて。
お母さんとお話してくるからね」
颯空は、美青の目をまっすぐ見つめて
力強く頷いた。




