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6.決意と選択が通ります(1)

「……はっ、は、はぁっ……!」


うまく息ができない。胸が苦しい。

ひゅっ、ひゅっ、と喉が鳴る。

視界が滲んで、涙がぽろぽろと頬を伝った。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!」


手が震える。自分の声が、どこか遠くで響いていた。


頑張って前へ進まなきゃと足掻いてる自分とは別に、それを傍観している自分もいる。


なんでこんな苦しい思いしなきゃいけないんだ。

こんな苦しい想いして乗り越えても、どうせまた頑張らなきゃいけないじゃんか。

なんで。こんな思いしてまで頑張る理由なんて、私には。なんで…………

なんで、なんで。なんで。なんでなんで。

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなん


ーーーガラガラッ


「おい渚沙。起きてるか。」

「っっ!!」


突然かかった声に飛び起きた。

開いたドアからこちらを見ている志乃さんと目が合う。


「お前顔真っ青だぞ?悪い夢でも見たか?」

「え……」


さっきのは……夢……?

手元に目を向けると見慣れない布団。周りを見渡すと、小学校の教室。

心臓はバクバクとうるさく、冷や汗がすごくて気持ち悪い。


あれは、不登校になる前の…


「…?まあいいや、伝えたいことがあって来たんだ。結果の詳細が出るまであと半日はかかるからお前も実働の仕事についてってくれ。」


「…え、え?」


「まあまあ、家に帰るかどうかは仕事見てからもう一回考え直してもいいんじゃないか??あー、ほら、そんなに結果を急がなくてもだな…?」


「………いや、多分行ってもかわr…

「アー!!イソギノシゴトガー!!そういうことだからな!よろしく頼むぞ。」


ーーガラガラッ


「………本当に勝手な人だな…」


………………というのが今朝の話で、今はというと。


「ねえ!!ももかのアイス勝手に食べないでよ!!」

「ちゃんと一口もらうって言っただろ。」

「いいって言ってないし!!」


二人は途中で購入したアイスをめぐって言い争っている。


結局、断る暇もなく事情を聴いた三人に車に乗せられて仕事に同行させられることとなった。


「ところでこれはどこに向かってるの…?」


「うーん…実は」


「実は…?」


「僕にもわからないんだよねぇ」


「えぇ…大丈夫なのそれ…」


なんで運転手が目的地把握してないんだ。

心配になっていると桃華が口を開く。


「桃華たちがお仕事行くときはいつもそうなんだよ。」


「…いつも?どういうこと?」


「エネルギーを測定するレーダーに基づいて、怪奇エネルギーの測定された場所に向かって異常がないか実際に確認するのが俺らの仕事だ。」


「なるほど。」


「でもレーダー上じゃ大まかな場所しかわからないから、結局そのあたり一帯人力で確認しなきゃいけない。実際に怪奇現象が起きてるのがどこなのか、行ってみないと分かんないってことだ。」


「…ご苦労様です。」


「いやお前もやるんだよ。」


「そうだよなっちゃん。なっちゃんにもへとへとになるまで働いてもらうんだから!」


「研修からハードな職場だ…」


「あはは…否定はしないけど、今日は気負わずにね。どんなことしてるのか分かってくれて、ちょっとでも興味持ってくれれば十分だよ!」


「……」


今日一回じゃ何も変わらないと思うけど、という言葉はぐっと飲みこんだ。


ーー数分後。


「そろそろ観測範囲に入るから車止めるね~」


「「「はーい」」」


着いた場所は普通の住宅街。

車はその地区の公民館に停めさせていただいている。情報部に連絡を入れるとあとは勝手に許可を取ってくれるらしい。………やりたい放題じゃないか。


「タッチ!!」


「バリア~!」


「あ!!ずるい!バリア回数決めようよ!!」


「え〜しょうがねえなー!じゃあ三回にしよーぜ!」


公民館の前の公園では小学生が鬼ごっこをしていて懐かしい気持ちになる。


「てか俺三時までだかんなー!」


「えー、あと三十分じゃん!」


賑やかな光景を見つつ小学生時代を振り返る。

バリアとかそんなのあったな……

公園の時計は秒針を鳴らしながら、二時半を示していた。


「ふふ、鬼ごっこか!懐かしいな。」


「ももかたちも鬼ごっこしちゃう??」


「いやしねえよ。」


「もう、じょうだんだよ~」


「はいはい、とりあえずマップ見てくれる?」


「…………マップ?」


「「「あ」」」


どうやら情報部の観測データをスマホで見れるようにする必要があったらしいが、情報部にたのまないといけないらしく、すぐにはできないことが分かった。


「じゃあ渚沙ちゃんにはゆづくんと一緒にこっちの地区の確認を担当してもらおうかな。」


「分かりました。」


「じゃあまた後で!」


「なっちゃん夕月くんまたあとでね~!」


隣の地区を見に行った桃華と律くんに手を振り、私たちも確認のために歩き始める。


「…といっても、見て回るだけで怪奇現象なんて見つかるもんなの?」


「まあ時と場合によるけど……歩いてるだけで見つかることってあんまりないかもな。そもそも目に見えるものとも限んないし。」


「へぇー、そういうもんなんだ…」


そんな話をしながら地区を確認して回る。

路地を覗いてみたり。ゴミ箱を覗いてみたり。


「なんか最近変なことないっすか?」


「…え?」


「いや急に怪しすぎだろ。」


住民に話を聞いてみたり。木に登ってみたり。


「何もないねー」


「戻ってきちゃったな…」


「どうする?」


「律くんたちに電話しつつもう一周してみるか、とりあえず。」


ーー♪〜♪〜


夕月のスマホからはコールの音が鳴っている。

改めて周りを見回す。


「……あ、もしもし?」


公民館にはここに来るために乗った車が1台。


「こっちも特には。……うん。」


隣にはオレンジ色の屋根の家がある。


「了解。じゃ。」


天気は先程と変わらずどんよりとした曇りだ。


「向こうももう一周確認したら戻るってさ。」


「……あぁ…うん」


「…何見てんだ?」


そして正面には公園。いくつかの遊具と、ベンチと、時計。


「タッチ!!」


「バリア~!」


「あ!!ずるい!バリア回数決めようよ!!」


「え〜しょうがねえなー!じゃあ三回にしよーぜ!」


公園ではまだ鬼ごっこが続いているようだった。

バリアとかそんなのあったな………


「「……あ。」」


聞き覚えのある会話。見覚えのある光景。


「てか俺三時までだかんなー!」


「えー、あと三十分じゃん!」


隣を見る。険しい表情の夕月と目が合う。


「戻ってるよな…?」


「戻ってるね…」


公園の時計は秒針を鳴らしながら、二時半を示していた。


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