2.科学の秘密が通ります?!(1)
「おばあちゃん!昔話ききたい!!」
「そうねえ、じゃあ蛍さんの話でもしましょうか。」
「やったあ!!おばあちゃん、はやくはやく!!」
「むかしむかし……
ーー…さん
ーー…ぎ…さん
「ん…ん…?」
「渚沙さん、おはよう。」
「…?!」
目が覚めると、突然知らない人が目の前にいてびっくりする。
「手荒な方法をとるしかなくて、本当にごめんね。体は大丈夫そう…?」
「…?」
手荒な…?というかここはどこだ。この人は誰だ。確か今日はコーヒー豆を買いに商店街に行って、おばあさんを道案内して、迷子に会って……
「あ、桃華ちゃんのお兄さん…?」
「いや、あれは嘘で......」
なんだ嘘か……ってそうじゃないそうじゃない!!これって誘拐じゃない?!110番!スマホ!
「あれ」
ポケットに手を突っ込むもスマホは見当たらない。
「ああ、スマホは回収してこっちで預かってるんだ。後でちゃんと返すから安心して。」
「いや信用できるか!というか、何するつもりですか……お金なら持ってないですよ。」
「お、お金?!違うよ!そうじゃなくて、ええと……」
思わず突っ込みつつ、目的を問うと、お兄さんは慌ててお金のことを否定し、困ったような顔でおろおろしている。お金じゃないとすれば……まさか……
ーガチャ
「安心しろ、金も命も取んねえわ。」
「なっちゃん起きたんだぁ~!おはよー!」
命の危険を感じているところにもう二人が入ってきた。桃華ちゃんと……………………なんだこいつすげえやばそう。いかつい見た目の長身の男がドアをくぐるようにして入ってきた。
「2人ともお帰り!」
「「ただいまー」」
「渚沙さんは今丁度目が覚めたところだよ。」
…というかなんでみんな私の名前を……?桃華ちゃんに至ってはなっちゃんとか呼んでなかった?
「…………」
「まあ状況が呑み込めないのも無理ねぇわ。」
「ちゃんと説明するからだいじょうぶだよ、なっちゃん!」
情報量の多さに黙りこくっている私に二人が声をかける。二人が入ってきたのと入れ違いで、最初にベッドサイドにいたお兄さんが立ち上がる。
「じゃあ僕は美里さん呼んでくるね。」
そう言うとお兄さん……律さん?……は、部屋を出て行ってしまった。そしてまた知らない情報が出てきた。美里さん…?誰だろうか。呼びに行くってことはお偉いさん……?それとも…
「つーか腹減ったな。」
「昨日冷凍庫に冷凍のナポリタンが入ってたの見つけた。」
「まじか。あっためて食おうぜ。」
「勝手に食べたら志乃さんに怒られちゃうかもよ?」
「大丈夫だ。高岩のババアは明日まで帰ってこねえ。」
私の思考を遮るように会話が繰り広げられる。…………なんだろうこの緊張感のなさ。本当になんなんだろう。
ベッドには医療用カーテンが付いているようだ。今は全開で、その役目は果たしていないが。
そういえばここは保健室……?さぼり常習犯だった私にはわかる。薬品の独特な匂いがしている。
周りを見渡すが、ベッドは私の寝ている物を含め二つしかないように見えるので、おそらく大きな病院などではないだろうと推測される。私が通っている心療内科にもこんなようなベッドがあったような気がする。
……でも保健室にしては何というか…………生活感?が溢れている。ソファもあるしテレビも置いてある。32インチくらいかな……?何せ冷凍庫に冷食がどうとか言っていたくらいだ。
ーーぐぅ~
……やべ、お腹なった。あまりに非日常なことが起きすぎて気が付かなかったが、私のお腹がものすごい空腹を訴えている。
「なっちゃんもお腹すいたの~?」
「そういやお前昼飯食えてないのか。おまえも食えよナポリタン。」
「…………。」
…………いやなんでこの状況で出された食事を信用して食えると思ってるんだこいつ。
そう思って渋っていると、桃華ちゃんが冷食の袋のメーカー名を指さして見せてくれる。
「大丈夫だいじょーぶ、正真正銘日〇のナポリタンだから安心して!」
ーぐぅ~
ダメ押しとばかりに空腹を訴える私のお腹。
「いいから食えよ。」
「…………じゃあ、いただきます………」
二人の押しと空腹に負けナポリタンの取り分けられた皿を受け取り、一口食べる。
……………………空腹は一番のスパイスだとかなんとかという気持ちがわかった。めちゃくちゃおいしい。思わずフォークが進んでしまう。
そうして私がナポリタンを堪能しているところに、先ほど出ていった律さんが美里さんとやらを連れて戻ってきたようだ。
ーガチャ
そして入ってきた男を見てびっくりした。ある意味ここでは一番異質な見た目をしている。今までの三人もクセは強かったのだがそれとはまた違った…オーラ…?というか威厳を感じる、そんな異質さがある。
まるでニュース番組の中からそのまま抜け出してきたような雰囲気だ。年齢はおそらく50代前半といったところだろうか…?
「美里さんもナポリタン食べます??」
「うんうん。とってもおいしーよ!」
「………なんで君たち三人で飯食ってんだ…」
地位の高そうな人にだいぶフランクに対応する二人に少し驚く。
「だって腹減ったんすもん。」
「そーだよももかたちお仕事して疲れてるんだよ??それになっちゃんもお腹なってたからみんなで食べよって!」
「その感じだとどうせ渚沙くんに説明の1つもしていないんだろう、どうせ…」
「まあまあ、」
「お腹空いてたし、」
「はあぁ……自由奔放すぎる……」
………………美里さんは威厳のある見た目に反して振り回されがちな苦労人のようだった。
大きなため息を1つついた美里さんは改めて私の方を向き、こちらへと歩み寄ってきた。何が起きるのかと身構えていると、美里さんは名刺を差し出してきた。
「説明がなく、困惑させてしまい申し訳ない。私は特異事象対策大臣の、美里 秀和と言う。」
「………………………だ、だいじん………?!」
大臣!?大臣ってあの国のお偉いさんの、厚生労働大臣とか文部科学大臣とかのあの??今日起きたことの何にも理解が追い付いていない状況で、とどめを刺された気分だった。そんなお偉いさんがなぜこんな怪しげな場所に怪しげな人たちと現れたんだろうか。
「国家に任命されている正当な大臣だ。と言ってもまあ信じられないかもしれないが、まずは君をこんな形で強引に連れてきてしまったことをお詫び申し上げよう。」
…………そうだ、大臣だろうが何だろうがあれはないだろう。あんな誘拐まがい………というかあれは誘拐と言って差し支えないだろう…。
「こうまでしても、君に必ずここに来てもらわなくてはならない理由があったんだ。」
「…………ど、どんな理由なんですか…」
それほどまでの理由って一体………と少し怖くなりながら聞き返す。
しばらくの沈黙の後、美里さんは口を開いた。
「……………………………君は、人には見えないものが見えているだろう。」
「っっ…………!!!なんで……それを……」




