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1.迷子の少女が通ります!

「お嬢さん、学校はお休み?」


「あ…はい。…今日は休みです。」


嘘だ。今日は普通の平日で、学校だって普通にある。行ってないだけだ。


臼田渚沙うすだなぎさ17歳。所謂不登校の高校2年生。


「うふふ。少し道をお尋ねしたいのだけれどいいかしら?目的のお店の場所がわからなくてこの辺りを行ったり来たりしていたところなのよ。」


「もちろんです。」


「このお店に行きたいのだけれど…」


そう言って50代位の夫婦が映った写真を渡してくれる。そこにはちょうど私がコーヒー豆を買いに行こうとしていたお店が映っていた。


「ここ、実は私もちょうど向かっていたんです。よければお店までご案内しますよ。」


「まあ!優しいのね。それじゃあご一緒させていただこうかしら。」


二人で他愛もない世間話をしながら店まで歩いていく。写真よりも古くなってしまった店を見ると、昔の店の姿など見たこともないのになんとなく感慨深くなってしまう。


「着きました。ここじゃないですか?目的のお店。」


「そうよそう!このお店よ~!ありがとうね、お嬢さん。」


「いえいえ、とんでもないです。それじゃあ入りましょう。」


そういうとおばあさんは少し悲しそうな顔をして、首を横に振る。


「……?せっかく来たのに入らないんですか?」


「ええ。残念だけれど………道に迷ってしまって次の予定の時間が迫っているのよ。このお店を見ることができただけでも、時間を作ってここに来たかいがあったわぁ!お嬢さんのおかげよ、ありがとう。」


「いえいえそんな、おおげさですよ。」


「そうだわ!お礼にこれ、お小遣いよ。何か欲しいものがあって来たのでしょう?少ないけれど足しにしてちょうだい。」


「そんな!いただけないです!!」


「あってもどうせ使わないのだから、ね。もらってちょうだい。」


「………そうですか。じゃあ、いただきます。ありがとうございます。」


こうして、ずいぶん大げさにお礼を述べたおばあさんは私の手に古びた500円玉を握らせてくれた。


「それじゃあね、優しいお嬢さん」


「はい。お気をつけて。」


おばあさんと別れの挨拶を交わして店の中に入る。お目当てのコーヒー豆を購入しつつ先ほどのおばあさんについて思考を巡らせる。

どこから来ていたんだろうか。この辺の人なら道には迷わないだろう。でも彼女は徒歩で来ていたように見える。バス……?は、この辺は本数も少なく走行している範囲も狭いし、可能性は低い気がする。なら電車かな……?いやでも……


「ねえ、」


「うわぁ!!!って、あれ、どこから声が…」


「下だよ、お姉ちゃん。」


突然声を掛けられびっくりしながら、声の言う通り下を向くと、小学生くらいのふわふわとかわいらしい女の子が一人立っていた。


「ふふ、びっくりしてる。おもしろ~い!!」


「大きな声出してごめん………ところでどうしたの?こんなところに一人で。」


「あのね~、ももか迷子になっちゃったの。」


「ももかちゃんっていうの?迷子になっちゃったんだね。」


東京のような大都会の喧騒の中ならまだしも………こんなところで迷子に会ったり道を尋ねられたり、珍しいこともあるものだ。


「お姉ちゃんも迷子??」


「そんなわけあるか!お姉ちゃんはフツウニお買い物です。」


ももかちゃんの突飛な質問に思わず突っ込む。


「あははは、冗談だよ~!お姉ちゃん面白い!!」


「………ももかちゃんは、えーと。」


「んー?」


「えーと、そう。誰と一緒にここに来たの?」


「えっとね~、お兄ちゃん!!車でね、来たんだよ!」


「そうなんだ。どの辺りではぐれたのか覚えてるかな?」


「んー、こっちだった気がする!!!」


「うぉっ」


そんな信用のならない言葉とともにももかちゃんは私の手を引いて走り出した。私はそれについて行かざるを得なくなり、一緒にお兄ちゃんを探しに行くことになってしまった。





そうしてしばらくあっちこっち行ったり来たりしたところでももかちゃんが声を上げる。


「あっ!!お兄ちゃん!!」


ももかちゃんの視線の先には、かわいらしい顔立ちの若いお兄さんが車の横に立って手を振っていた。


理解が追い付かない私をおいてももかちゃんはお兄さんの方へ駆けていった…………と思ったらまた戻ってきた。そうして、まだびっくりしている私の手を引いていく。


「お兄ちゃんがありがとうしたいって言ってる!」


「うぇ、え、ええ?!」


いや力強いなこの子。お姉さん衝撃だよ。ひ弱な私といえども小学生には流石に勝っていたいなんて祈ってしまうほどだった。


「桃華がご迷惑おかけしてほんとにすみませんでした…」


「いえいえ、そんな。」


童顔のお兄さんが人のよさそうな顔を精一杯申し訳なさそうにして謝るものだから、なんだか気が抜けてしまう。


「兄の律です、この度は本当にありがとうございました。」


そう言ったお兄さんは、突然両手で私の手を取ってぶんぶん振ってきた。

思っているより勢いよく距離を詰めてきたお兄さんに困惑する。


「え、あ、あの?大丈夫なんで手をはなs


ーーグイッ


ードンッ


背中にものすごい衝撃が走る。


あれ……?見えてるのは車の……天……井…?


「本当にごめんね、少し寝ていてもらうね……」


「お姉ちゃんごめんね~」


私の意識はそこで途切れた。


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