9 遠くの目
アカトビは、去年あたりからこの森に現れました。青い空をゆったりと舞う姿は、美しいものです。でも、それはアカトビが相手を油断させるために何も気にしていないように見せているだけです。一旦、鋭い目でウサギやネズミをみつけると、アカトビは恐ろしい怪物になります。翼を半ばたたみ、爪を突き出し、狙ったものへ斜めに突っ込んでいくのです。それは、あっという間のことです。アカトビの足の指は、掴んだ物を簡単に握りつぶす力があります。よく研いだかぎ爪は、獲物の体に容赦なく食い込みます。捕われた動物は、痛みで声もあげられません。そして、アカトビは、絶対に力を緩めないのです。
アカトビが空に円を描いて飛んでいると、下の方に三匹のハリネズミがいました。このハリネズミたちは常に警戒をしているので、アカトビは隙をつくことができないでいました。アカトビは、暫く何も食べていないのです。お腹がすいていました。アカトビは、どうしても一度で仕留めたいのです。気長に旋回を繰り返します。すると、太ったハリネズミがもう一匹いました。
「これだな」
ふっと、嘴から息が漏れました。アカトビは「あれなら、必ずやれる」と胸を張りました。ハリネズミは、全くアカトビに気付いていません。アカトビは、一気に高度を下げて切り込みます。自慢の爪を十分に広げ、もう獲物の体に刺すように準備していました。