7 どうでもよいこと
以前は、ポポが一番の早起きでした。でも、今は、ココが誰よりも先に森へ飛び出して行きます。ココが目指すのは、ブナの樹の傍の石でした。
収穫時期に、ハリネズミたちはプラムの樹まで行かなくてよくなりました。ブナの樹まで行けば、プラムが樹の下の石の上に置かれているのです。父さんは、これまでとは違う段取りに、少し戸惑っています。でも、父さんは実を運ぶのが楽になったと喜んでもいました。
ココは、何故、プラムが石の上にあるのかを知りたがっていました。あの灰色の家の大男がプラムを石の上に置いていくのが不思議なのです。そして、実のところ、誰も本当にそうなのかはわからないのです。何故なら、ブナの樹の周りは下草に覆われ、一つも大男と犬の足跡がありませんでした。
今朝も、ココが団栗を蹴とばしながら家に帰ってきました。大男は、現れません。朝ご飯を食べている時、母さんが言いました。
「ココ、もうやめたら?毎日行っても仕方がないでしょう」
ココは、口を尖らせました。確かに、母さんの言う通りです。収穫の日の朝も、そこには、プラムだけがあり、誰もいないのです。毎朝、ココが行ったとしても、どうにもなりません。
「いやだ、絶対に諦めない」と、ココが言います。
父さんが、ため息をつきました。ココは、自分の決めたことを簡単に変えないのです。食卓が急に静かになりました。ココ以外は、プラムさえ手に入れば良いと思っています。マロンが、お代わりのパンに手を伸ばし、笑いながら言いました。
「うふふ、あのさ、ココが、授業中、居眠りしたって」
マロンは、皆がこの話を面白がると思ったのです。
兄さんたちがココと母さんを見ました。
「一回だけだよ」ココが悔しそうに言います。
チクが意地悪な目をして、ココが触れて欲しくないことを話します。
「いや、ちがうね。それに、お前、連絡帳の頁を破いただろ」
ココの耳が真っ赤なりました。先生が、最近、ココが授業で寝ていることを連絡帳に書いていました。ココは、握り締めた手を両膝にのせ、もう何も食べませんでした。母さんが、学校に行くココを呼び止めました。
「ココ、連絡帳をみせて」
それは、学校の先生から父兄へのお知らせが書かれたものです。連絡帳は、蔓で綴じられたオークの葉の束です。ココは、鞄からそっと出すと、不服そうに渡しました。母さんが頁を開くと、ちぎれたオークの葉の端が綴じ込みの間に挟まっていました。ココは、黙っています。母さんは、次の頁に鳥の羽の軸で閲覧の印を付けてから、ココに返しました。
そして、ココの顔をじっと見て、
「授業中に寝てしまうのは、だめよ。でも、先生に注意されたことを隠そうとするのは、もっといけない」
ココは、一度だけ頷きました。
「これからは、朝早く、森へ出かけてはいけません」
母さんの厳しい口調に、ココは肩を落としました。そして、そのまま返事もせずに家を出ました。眠る時間を減らしてまでも、ココは大男と遊んでいるようで楽しかったのです。
学校へ行く途中で、マロンが待っていました。
「ごめんよ、ココ」
ココは、マロンを見ずに速足で歩きます。マロンは、泣きそうな顔で追い付こうとします。
「ココの居眠りのこと、学校の皆が知ってたよ、僕だけじゃないよ」とマロンが言います。
ココは立ち止まり、マロンを振り返りました。
「でも、あの時、話すべきだと思う?」とマロンを問いただします。
ココは、目を見開いて怒っています。
「ごめん、僕がわるい」
マロンは、頭を下げました。その様子を見て、ココは口元を歪ませて言いました。
「じゃ、お前が、大男が来るのを見張れ」
「えっ」
マロンは驚きました。ココは、続けます。
「今まで、朝に行ったけど、やつらは来ない。これからは、おまえが学校から帰ったら行け」
「それで、僕のことを許してくれるの」
「うん。そのかわり、本当に、大男が来ているのか、確かめろよ」
そう言いながらも、ココは大男と犬のことがどうでもいいことだと解っていました。自分が間違っていると気付いているのですが、ココはマロンをやり込めたい気持ちを止められませんでした。
マロンは、少し考えてから、「わかった」と言いました。それから、二人は、また歩き出しましたが、お互いに無口でした。