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ハリーさん、こんにちは  作者: ゴリラ
森のなか
50/58

50 震え

 「怖いよな、やっぱり」

チクが身を低くしたままマロンに言いました。チクは、手に青い粒を握り締めました。

「でも、このまま、此処にいたらダメだ」

チクが、点滅する警告灯のようにまばたきをします。マロンは、二粒を吐き出して手に握り締めました。涎で溶けていて、力を込めると粒が逃げ出しそうになりますが、手の真ん中に置いて揺るがないようにします。

「マロン、お前が来た鉄線の破れた所あるだろ」

「うん」

「あそこの下にトンネルを掘ったから、そこを通って森に行く」

「うん」

「プラムの樹の裏、少し窪みがあるから、そこまで行く」

「うん」

「止まらずに、行く」

「うん」

「どんなことがあっても、止まるなよ」

チクがマロンの返事がないので、目を覗き込みました。

「うん」と、マロンは顔を横に向けて言いました。それから、マロンは小さく息を吐いてチクに聞きます。

「あれは、アカトビ?」

チクは、マロンの髭が細かく震えているのがわかりました。

「うん、たぶん」

今度は、チクが震える息を吐き出します。

「俺たちは帰らなきゃならないよな」

チクが言うと、マロンは棒立ちになっていました。

「だろ?」

チクが念を押します。

「うん」

マロンの口からは、「うん」しか出てきません。チクは自分の肩を叩いて、マロンに体を低くするように教えます。チクは肩の骨が目立つほど頭を低くして、地に腹をつけました。

「いくぞ」

チクの後ろ足が土を小さく掘り起こして蹴りました。同時に、マロンの小さな声が聞こえました。

「待って」

「なんだよ」

チクがマロンへ頭を回して振り向きます。眉間に皺を三本も寄せていました。

「怖いよ」

マロンは血だらけの父さんを思い出していました。

「いいか、此処にいたら、必ずやられるぞ」

チクは続けて言います。

「今だって、トビは見つけているのかもしれない。でも、見つけていないかもしれないんだ。今なら逃げることもできるんだ」

マロンは、頭を上下に何度も振りました。脳ミソが揺さぶられて、考えが止まりました。

「いいか、俺の後ろをついてくるんだ。丈の高い草にぶつかるな。草を揺らさないんだ」

チクは、唇を噛むマロンを見つめます。

「何があっても、止まったらだめなんだぞ。わかるよな」

チクは空を上目遣いで睨みます。マロンは、両手に持っていた薬の粒を口に押し込みました。マロンは頬を膨らませ、チクの背中を見つめます。

 チクが蛇のように静かに走り始めました。二人は、森の境界線を目指します。


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