5 帽子の大男
「赤珠」を胸の前に抱き、マロンが先を歩きます。他の皆が、荷車を押します。荷台の上は、プラムで満杯です。母さんは「赤珠」を見ると、玄関で手を叩いて喜びました。全員が一列に並び、家の奥へと手渡しでプラムを運びます。
「あっ」
ポポがプラムを落として慌てます。まだ朝露で濡れたままの実もありました。
チクが、その転がったのを受け止めて、
「ひゃひゃっ」と笑いました。
家中に、甘くて酸っぱい香りがします。父さんが、保存庫にプラムを隙間のないように積んでいきます。そこは、壁と床に小さな石が敷き詰められ、温度が低くなっていました。最近、プラムの数が増えたので、父さんは、地中に、もう一つ食料の部屋を造るつもりです。
ココが、食卓で「赤珠」を見つけた時のことをマロンに細かく聞いています。皆は、いつもより遅い朝ご飯をようやく食べていました。一休みです。今日は収穫のつもりでしたから、学校には3日前から欠席の届けを出していました。でも、残りのプラムがまだ外にあるので、のんびりはしていられません。ハリネズミは、プラムの樹と家までの途中に、採った果実を隠すところを用意しています。石の上のプラムは、その幾つかに分けて移しましたから、少し安心していました。
ココが言いました。
「マロン、じゃ、ムクドリが先にいたの?」
「んー、わからないよ、それは」とマロンは眉を寄せます。
マロンがパンを食べながら、
「でも、鳥が、それぞれ、自分のものだっていうんだよ」と言い、瞼を重そうに開きます。
ココは、どうしてプラムがそこにあったのかを知りたいのです。
ソラが、思いついて言いました。
「あの犬、ダックスフントだよね。ぼく、見たような気がする」
「本でしょ」と、パンを小さくかじりとり、ココはソラを見ました。。
「いや、ほら、ポポと一緒に、樹の結界を見に行った時だよ」
ソラは、パンを夢中で食べるポポを指さしました。ポポは、鼻先に糖蜜を付けていました。父さんがお茶をゆっくりと一口飲んで、「今年の春先だな」と言いました。
「樹のとなりの庭に来てた」と、顎を掻きます。
母さんは、父さんにお茶のお代わりを注ぎました。
ソラが、何度も頷きました。
「そうだ、あの犬、僕らを見ると、すごく吠えるんだ。そして、男が、建物の中から何か言うと、その犬、吠えるのを渋々やめるんだよ」
ココが、「もしかして、灰色の壁のところ?」と聞きます。
「え、白かったよな」と、チクはびっくりしていました。
ソラが、「僕とポポは、男がペンキを塗っていたのも、前に見たよ」と言います。
「プラムを石の上に置いたのは、その男だ」と、ココが食卓を叩きます。
ソラは、ペンキを塗っていた男の話を続けました。
「ながーい棒をね、両の手で持ってさ、壁に付けるんだ。そしたら、そこから、灰色の線が走るんだ。白が逃げるように消えていく、、、、さーっとさ」
ポポもお茶のスプーンを振り回して、その様子を教えます。
「すんごい、大男でさ、帽子をかぶってた」
「ほんとかよー」とチクが笑い、皆もつられて笑いました。
でも、マロンだけは、静かに座っていました。マロンは、パンを掴んだ手を胸に置き、食卓の椅子の背にもたれ、眠っていました。笑い声にも気が付きませんでした。