48 雨上がり
僕は今朝、目が覚めてから、布団の中で、右向きに体を変えたり、左にひっくり返ったりを繰り返していました。昨日の夜、寝酒と言いながら、ワインを飲み過ぎてしまったのです。いつもよりも遅い時間に、ベッドから体を引き離しました。頭が重く感じます。洗面所で頭を振りながら、歯ブラシを持ちます。そして、鏡の中の自分を真っ直ぐに見ました。嵐の中の枝葉のようです。旋毛も分け目も何処かに行ってしまっていました。目を覆う髪の毛の隙間から、自分の二日酔いの顔を確かめます。唇が乾燥し、目の周りが浮腫んでいます。
「フン、フン」
吸引の音に、頭が冴え始めました。この「吸っては吐く」の忙しない連続は、音量は低いものの耳に嫌な感覚を残します。寝室のドアの下には、三ミリ程度の隙間がありました。そこに鼻息を吹き込んでいるのは、お腹を空かせた五郎です。僕は、眉を思いっきり寄せて舌を打ちました。だるい朝、この無言の圧が僕の深いため息に変わりました。
「わかった、わかった」
暫く使っていないリコーダーのひと吹きのような音が僕の咽喉から出てきました。
五郎は、僕がドアを開けて出て行くと尻尾を振って、軽いジャンプをしてきます。僕は、朝ご飯をあげながら、掌で五郎の頭を抑えるようにそっと撫でました。
「今日は、昨日の雨が上がったばかりだし、散歩はやめような」
口を動かして忙しい五郎は聞いていませんが、僕は窓に立ち、庭を眺めながら言いました。外は、昨日の空が宙がえりをして、大雨を地面にぶちまけたようになっていました。雨の止んだ朝の空は、誰が騒いだの?というような顔で、草の葉の水滴を珍しそうに見下ろしています。風が草を揺らしていきます。僕は庭の湿った空気を吸いこみ、胸に冷気を入れたくなりました。僕は窓枠に指を引っかけて、体を斜めにして足を踏ん張り、重い窓を開け放しました。そして、窓辺の隅にあるハリネズミの箱の蓋を広げます。ハリネズミにも、この朝の光と新鮮な空気が入るようにしました。僕が箱を覗くと、ハリネズミは寝床のタオルを足でかき集めていました。僕は箱の蓋を掴み、箱を床に引きずりながら、開け放した窓際に置きます。
「きもちいいぞー。ほら」
ハリネズミにそう話しかけてから、僕は庭に出ました。餌を食べ終えた五郎が、僕に走ってきます。
「あっ」
五郎は外でかけっこをするように、垂れた耳まで翻す勢いで跳ねて来ました。五郎は、窓の側のハリネズミの箱に体当たりし、僕の足元でまた跳ねています。段ボールの箱は庭に口を開けるように倒れてしまいました。僕が大股で駆け寄ろうとすると、灰色のスエットパンツのポケットに入れたままの僕の手が五郎の気を引きます。五郎は何度も飛び上がりじゃれてきます。
庭の地面に落ちたタオルの下からハリネズミが顔を出していました。その場を歩き回り、背の毛を少し立てていました。
「まてまて、ごろう」
ハリネズミに近づこうとすると、五郎はまだはしゃいで、僕にまとわりついてきます。




