46 青い粒
「ぺえっ」
マロンは、皺を鼻の周りに寄せて吐き出しました。チーズの塊は口の中で崩れるのですが、固い種のようなものがいつまでも舌の上に残っていたのです。マロンのタオルの上に、青い粒が一つ落ちています。
「なんだろう」
マロンは見たこともないほど強い青い色に目を見張りました。そして、昨日の夜も、パンを食べた後、口の中に種のような粒があったことを思い出していました。マロンには、あれはこの青色をしていた粒だとわかりました。昨日の粒を飲み込んだことで心配になったマロンは、自分のお腹を擦りました。
「あれ?」
マロンは、自分の横腹に乾いた皮の膨らみがあることに気がつきました。これが、お腹の痛みの理由だったと、ようやくわかりました。その亀裂の閉じられている箇所を舌で舐めました。今朝は、ここが痒かったので、後ろ足で何度も掻いていました。
「じゃ、これは、薬か?」
マロンは、ヘッジ先生の薬の形を思い出します。風邪をひいた時に飲んだ、ヘッジ先生の薬も丸かったのです。でも、あれは、色が茶色で、こんなに小さくはありませんでした。
「これは、もしかして、大男の魔法の薬だ」
マロンの身体に力が入ります。タオルの上で、二、三度飛び跳ねました。
今朝のご飯には、水の雫の形をしたナッツが二粒と、干し葡萄六粒がありました。チーズの旨味とよく合いました。でも、干し葡萄の二粒目を口に入れると、マロンの首が次第に下を向きました。三粒目を口に押し込むと、前が歪んで見えます。マロンの目に涙が浮かんでいました。葡萄の粒を大袈裟に口を開いて噛みしめると、目の縁から盛り上がる涙があふれて、一滴落ちていきました。鼻をすすって、家で食べた母さんの干し葡萄やプラムの味と比べます。
マロンは、その青い粒をそっとタオルの下に隠します。「これは、きっとすごいことだ」と胸の前で指を握り締めました。それから、マロンは大男が水の皿を取り替えに来るのがわかっていましたから、その隠し場所の上にお腹を置いて横になりました。
チクとソラは、この三日間ずっとマロンを探しました。ポポが小声で「マロンは、家出をしたの?」と聞いたりする時、チクは大笑いで返しました。
「あいつは、遊んでいるんだよ。隠れてる」
チクがそう言うと、ポポは、笑顔の貼り薬を顔にくっつけたみたいに笑ってみせます。3日目の朝になると、一瞬、思いを込めた目をして互いを見ますが、誰もが何も言葉を発しませんでした。
チクとソラは、ヘッジ先生の家の辺りを探していました。あそこは岩場が多いのです。マロンは、岩の隙間の洞窟のような所に隠れるのが好きでした。三日目は、朝から、肌に寒が刺さり、足の裏が冷たくなりました。歩いているだけで、湿気が毛に溜まり、体が濡れていきます。昼前には大雨になりました。チクとソラは足が跳ね返した泥を背中に沢山付けて家へ急ぎます。息を切らして、家の玄関の前に立つと、チクが言います。
「明日は、プラムの樹の方に行くよ」
ソラは、口を引き締めて、
「じゃ、俺は、アカトビに襲われた場所の近くを探す」
「大丈夫か?」
チクは、珍しく心配な目をしていました。ソラは、黙って頷きました。父さんの高熱が下がらず、母さんは看病に疲れ切っています。今日もマロンは見つかりません。ソラは、チクの肩を軽く叩きました。二人はお腹と足に付いた泥を落として、家に入って行きます。
大雨は止むことなく、一晩中、地に無数の連打を鳴らし降り続けていました。




