45 邪魔な粒
僕はスポイトを使って、獣医から処方された薬をハリネズミに飲ませました。思いのほか、抵抗もせずに薬を受け入れたので、僕は何処かで飼われていたハリネズミではないだろうかと思うようにもなりました。昨日、与えたチーズは箱の中から消えていましたから、ハリネズミも随分気を許しているのだと思います。
「どれどれ?」
僕は五郎の朝の散歩から帰った後、箱を覗きます。ハリネズミは水を飲んでいました。
「あー、良かったね」
僕はつぶやき、箱の蓋を半分閉めて立ち上がりました。獣医からは、ハリネズミが水を飲むようになったら、抗生剤を与えるように言われていました。僕は、その言葉を守り、薬を食べ物に入れることにしました。米粒よりも小さい錠剤です。それをサイコロよりも少し小さくしたパンの中に入れます。その青い錠剤が上手く隠れるように、そのパンを指で潰して固めました。チーズも小さな塊に砕きました。
「ほら」
僕がチーズとパンを一緒に箱に入れると、ハリネズミは知らんふりで、隅で寝たままでした。僕が箱から離れれば、腹ペコのハリネズミは次から次へと飲みこむように食べるのだろうと思いました。
僕が昼ご飯を食べる時に、箱を覗くと、チーズもパンも消えていました。僕の作戦通り、ハリネズミは薬を飲んでくれたようです。「これで化膿せずに傷口が治る」と頷き、僕は獣医のように腰に手を当てて箱を見つめます。ハリネズミは、お腹も一杯で、薬も効き、午後はずっと眠っていました。
マロンは、長い眠りから目が覚めると、顎を大きく開いて欠伸をしました。チーズの他に、パンも食べたので、お腹は減っていません。マロンは、ベリー味の差し入れがないので、口をへの字にしていました。
「あー、どうしたんだろー。わすれてるのかな」
マロンが右脇を指の爪で搔きながら、天井を見ています。そうしていると、大男の姿が現れました。大男は、指の先で何かを潰していました。箱の中から皿を取り上げ、また戻します。皿の中には、同じ様に砕けたチーズとパンが入っていました。マロンは首を回し、薄目を開けて、大男が立ち去るのを見ていました。
「最高だな」
マロンの顔は、笑んでいます。マロンは、ふかふかのタオルの上で身を転がしました。お腹も痛くありません。仰向けになり、手足の筋肉を伸ばして寝そべりました。暫く、そうしてから、ゆっくりと寝返り、箱の隅に置かれた皿に近づきます。
「この、チーズ、うまいんだなー」
マロンは、口に入れると脆く崩れていく塊を舌の上に置いて溶かしていました。朝は、急いで口に詰め込んで平らげましたが、今回、マロンは欠片の一つひとつを目を細めて味わっています。一瞬、マロンは、口の中に溶けない粒が残って首を傾げて考えましたが、次のチーズを放り込みたい気持ちの方が忙しくて、その邪魔な粒を飲み込みました。
「あー、ベリー味の甘いの、まだかなー」
皿は空になっています。マロンは指をしゃぶりながら、大男がいつも覗き込む段ボールの縁を見上げていました。




