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ハリーさん、こんにちは  作者: ゴリラ
森のなか
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39/58

39 あのとき

「父さん、そんなに悪いんだ」

ソラが流し台の縁に両手をついて、項垂れます。

「そうなの。ヘッジ先生が4日後に往診に来るけど」

母さんは、煎じ薬を湯飲みに注ぎます。プラムの皮と実が鍋の中に、ふやけて残りました。

「紫斑が出ているから」

母さんはソラに教えます。

「どうして?」

「アカトビの嘴から、ウイルスが入ったのよ」

ソラは、「あー、そうか」と母さんを見ます。

「少し、切るの?」

ソラが軽い口調で聞きます。

「多分、右の腕全部になる」

「えっ?」

ソラは呼吸を止めて動きません。それから「右手を失くしたら、、」と言いかけて口を閉じました。暗い目をして、足先の床を見つめます。暫くしてから、ソラが思い出したように言います。

「どうして、あの時、マロンが森にいたのかな。僕、最近考えるんだよ」

母さんは、厳しい口調でソラに言います。

「そんなことは、どうでもいいのよ。今となっては」

「でも、マロンを見に行かなければ、父さんは無事だったんだよ」

母さんは、首を何度も振りました。

「もういい、この話は2度としたらダメよ」

ソラは母さんにお尻を叩かれます。そして、母さんの手を腰を引いて避けると、「わかった、わかったって」と言いながら、自分の部屋へ向かいました。

 煎じ薬は、湯飲みの中で程よい湯気を立てています。母さんは、蜂蜜を一匙垂らしてかき混ぜます。父さんは、御粥を一口も食べませんでした。母さんは煎じ薬を父さんに持って行きます。

 誰もいなくなった居間で、むせび泣く声がします。食卓の下に丸くなっていたマロンです。肩を震わせて、泣いています。指で目元の大粒の雫を拭うのですが、涙があふれてくるものだから、頬が濡れています。マロンは身を起こし、食卓の下から出てきました。「父さんの腕が無くなるのは、自分のせいだ」と頭の中で繰り返し、唇を噛みます。息を吐こうとすると、涙が出て、顔が皺だらけになります。腕の無いハリネズミは、キツネやアナグマの餌食です。

 マロンは膝を抱えて座りました。涙が止まるように、目を膝頭に押し付けます。マロンの頭の中にあの時のココとの約束が浮かび上がります。

「大男だ」

マロンは、悔しがります。「全部、あの大男が悪いんだ」とマロンは呟きました。大男が森にプラムを持って来るのをマロンは調べていたのでした。マロンは顔を腕で拭きました。そして、ゆっくりと立ち上がります。

 父さんに煎じ薬を飲ませた後、母さんが居間にきました。空の湯飲みを流し台に置くと、ホッとした顔になります。肌寒い風が母さんの一息を冷やかすように入って来ました。母さんは、玄関の扉が開けっ放しているのに気づきました。外は青白い薄暗さが消えてしまい、夜の闇が全てを覆っています。扉に近づきながら、母さんが口ごもりながら言います。

「だれ?ちゃんと閉めないのは。ほんとに、こまったものね」

母さんは手の平で扉を抑えて、閉め切りました。それから、寝室へ戻っていきます。



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