31 帰ろうか
ココの足先が、苔のない地面を蹴ります。つま先が引っかかる湿りのある土が怒ったように持ち上がり、前に飛び出しました。ココは肩を落として、チクの座っていた場所まで上がっていきました。自分の鞄を持つと、マロンとポポを急いで追います。歩きながら、心の隅では、まだ、ボヨヨン理論を考えています。「ルシアン先生もチクと同じことを言うだろうか」鼻先を下に向けて、答を探します。
「ね、まだ、遊んで行こうよ」
マロンが、チクの背中に声をかけます。チクは、体を前に揺さぶるように歩いていましたが、急に立ち止まりました。
「そうだな」
チクは、空を見上げます。晴れた日、外で弟たちと遊ぶのも悪くないと思いました。
「まだ、家の中、臭いと思う」
ポポがマロンにくっついて、チクの機嫌を伺うように言います。チクは、ポポを指さしました。
「うん、たしかにね」
ポポはチクの人差し指の先端を見て、頬を少し赤らめ、胸を張りました。チクは、腰に手を当て前かがみになります。
「何して遊びたい?」
ポポが、急に頬を膨らませます。
「僕、かくれんぼは嫌だ」
マロンが、ポポの顔を機敏に振り返ります。
「なんで?たのしいよー」
「だってさ、僕が鬼の時、見つけられないで終わるもん」
後ろで、ココが「あー」と息を吐くように言います。ポポは体が小さくて樹の洞などに埋まるように隠れます。でも、鬼になると、森の中で泣き出しそうになるのです。チクが見つめると、ポポは左右に動かしていた体に付け加えて、腕まで振り始めました。マロンが笑っています。
「あのさ、ミミズ探しは、どう?」
チクは、マロンの考えに「おお、いいな」と目を光らせました。チクは、腕の力こぶを弟たちに見せます。ミミズは、水分を多く含んだ、良質なたんぱく源です。
「えーっ。僕、お腹いっぱいだな」とココが口を尖らせました。
チクは、ココに手招きします。ココが少し離れた位置に立つのが気になりました。弟たちの手を引いて、高い草の下に入ります。少しだけぬかるんでいるので、足裏が冷たく、こそばゆくなります。
「ココ、お前が見つけたミミズは、俺によこせ」
「えー、ずるいよ」
マロンがチクの胸にパンチをします。ポポは、笑って小さい足踏みをします。かくれんぼよりも、ずっとミミズ探しが楽しいので、もう気分は歩き出していました。
「よし、あそこに行こう。ブールビエだ」と、チクが声を上げました。
「えーっ!」
マロンの細い目が、白目になります。
「あそこは、危ないから、父さんが駄目だって言ったよ」
ココが、チクに反対の意見を投げつけました。チクは、笑って言います。
「あれは、中に入ると危ないんだぜ。ミミズ探しは、あの周りでやるんだ。大丈夫だよ」
チクは、ココに臆病者への薄笑いを返します。ココは下を向いて、口を閉ざしました。丈の高い草が風で、葉先を揺らして通り過ぎます。
「あそこ、ミミズいそうだな」
マロンがもう、涎を足らしそうな口をしています。ポポは、爪を舐めていました。爪の先の曲がりに柔らかいミミズの肉を引っかけて引っ張るのです。ミミズが切れないように、力を加減して緩めながら、ミミズの穴から体を全部引き出すのです。ポポは、大きなミミズが大好きでした。
「よし!ブールビエ!ブールビエ!」
マロンが叫ぶと、ポポも一緒に連呼します。チクは、拳を振り上げ、体の前で斜めに振りながら、膝を高く上げて歩き出します。
「ブールビエ!ブールビエ!」
皆で声を出して、叢から叢へ歩いていきます。成虫になったばかりの緑色のバッタが、体を跳ね上げ、逃げていきます。




