30 ボヨヨン理論
ココは、唾を飲み込みました。頭の中には、チクとマロンとポポがココを眩しそうに見て、拍手をしている絵が浮かんでいます。
「僕らは、皆、粒つぶの集まりであると思う」
ココはそれだけ言って、マロンの眉を見ました。マロンの顔の眉毛が八の字に傾き始めるのは、「わからない」の印です。
「なんで、そう思うの?」
ポポが胸の辺りを掻いて、忙しなくしています。
「蛙のたまごだよ。あれを見て、そう思ったんだ」
「ふーん」とポポが答えます。
「ここからが、大事なんだけど、ルシアン先生が僕らが住んでいるのは、丸い球だって言っていただろ。そして、その丸い球の周りが宇宙だって」
マロンが珍しく、頷きました。ポポは、初めて聞いたことに「へえーっ」と小さく声を出します。
「最初、宇宙には何も無くてさ、ボヨヨンとしていたんだと思うんだ。蛙の卵みたいにさ。ボヨヨン。で、宇宙は何も中身が無いから、曲がりもなかったんだ」
「何も無いなら、丸い球はどうするのよ」とマロンが心配そうに言います。
「うん、今、僕らのいる丸い球は、大爆発とか、なんかで粒が集まって塊になってできてさ、形になっていったんだ。そうすると、つぶつぶは、ボヨヨンの中で重さを持って塊になる」
「うん、わかる、ここで、丸い球だね」
ポポが目を輝かせてココを見ます。話を聞く前は肩を落としていましたが、今、ポポは樹の根から背を離して身を起こし、耳を立てています。
「塊は、ボヨヨンの空間を曲げて存在することになるんだ。ボヨヨン側の押す力と集まった固まりの広がろうとする力が現れるんだ。塊の押す力よりも、ボヨヨンの押し込める力がずっと大きいから、丸くまとまった球になってさ、その周りの時空も曲がるんだよ」
そこまで言うと、ココは息をゆっくりと吐き出しました。
「そして、僕らの体もつぶつぶなんだけど、ボヨヨンの力によってまとまっている。僕が、ハリネズミとして、今ハリネズミになっているんだ」
ココが、右目の端で、マロンを見ると、眉毛が少し傾きかけていました。ポポが、手を勢いよく挙げます。
「じゃ、お月様は?どうなるの?」
「僕らの立っている丸い球の周りは、きっと時空が曲がっていてね、それによって、月も動くんだ。本当は、月は、真っ直ぐに動きたいんだろうけど、丸い球の周りのボヨヨンの空間の曲がりによって、回っているんだ」
今度は、ポポが口を開けたまま、座っています。顎に指をあてて、何かを考えているようでした。ココは、最後に、できるだけ簡単にまとめます。
「ボヨヨンとした宇宙の中で、丸い形になった、なるしかなかった物が重みを持って、ボヨヨンを歪ませている。そして、その丸い球の重みが持つ力とボヨヨンの力のおかげで、僕らは立っているんだ」
マロンは、眉毛を完全な八の字にしています。ポポは、首をひねって耳を掻いています。
「終わったか?」
チクの声が天の声のように響きます。チクは、腕を広げ、伸びをしました。弾みをつけて立ち上がり、ココを真っ直ぐに見て言いました。
「帰ろうぜ、俺は、考え直した方がいいと思うよ。そのボヨヨン理論もね」
マロンとポポも小さく頷き、立ち上がりました。




