28 ASC
「ぼくさ、ASCに行きたいんだ」
ココは、皆の顔を確かめました。チクは、口を開けたまま、魚の燻製を口元に当てて固まっています。ポポの耳が動きます。ポポは誰かが答えるのを待っています。隣に座るマロンは魚の燻製を口にくわえると、手を叩きました。
「いいね!ココ、いいぞ!」
マロンは立ち上がって、今にも踊り出しそうに体を揺らして喜びました。
「ね、ASCって、何?」
ポポがマロンに聞きました。マロンは急に座り込み、何も聞こえないふりをしました。歯の間に挟んだ魚の燻製を引っ張るようにして、食いちぎります。
「ASCってのはな、いろんな動物が行く学校だ。新しくできたばかりで、本当にあるのかも分かんないんだぞ」
チクが眉を寄せて、気難しい目をして言います。
「でも、ルシアン先生は、僕にASCに行って博士になるべきだって」
ココはチクの目を見て話します。チクが怒っているような目をしているので、それ以上は言えませんでした。
「色んな動物って、どういうこと?」と、ポポがマロンに聞きます。マロンの口は、小さくなっていた魚の燻製が入り、話すどころではありませんでした。マロンは、首を振り肩をすくめてみせます。
「フクロウ、キツネ、テン、アナグマ、ヘビ、、もいるんだ」
ポポもマロンもチクを見て、青ざめます。ポポは魚の燻製を持っている手で、頭を掻きます。
「なんで、そんな学校に行きたいの?」
ポポの声は、裏返っていました。
「ASCで学べるのはね、動物の中でもほんの一握りだよ。僕らが今教わっている内容より、ずっとレベルが高いんだ」
「でも、食べられたら、終わりじゃん」
マロンが肩を落として呟きます。ココは「別に、僕にとって危険なフクロウとかキツネばかりじゃないよ。他の動物もいるよ」と言い、安心させようと必死になります。
「何のために、ASCに行くんだ?」
チクは、不満で膨らんだ頬をして、魚をかじりながら問いました。
「僕は、もっと沢山のことを知って、それを次の子供たちに伝えるべきだと思うんだ」
「えーっ、もっと勉強増えるのーお?」
マロンが背を倒し、寝転がります。ポポは、チクとココとマロンの顔つきを目で追います。ポポには、今、ココが話したことに間違いは無いように思えたのですが、どうしたらよいかわからずに黙り込みました。魚の燻製の先っぽが、湿ったままで口に入れられるのを待っていますが、何だか、食べる気がしなくなりました。
チクは、眩しくもないのに、何度か目を瞬かせました。
「俺は、危険だと思うよ。それに家族からも遠く離れるだろ。アナグマと一緒に勉強なんて、できるわけがない」
そう言うと、チクは首を振って鼻から息を吐きます。マロンもポポもチクが不機嫌なのがわかりました。ココの手から、魚の燻製が落ちました。ココは、チクに向かって拳を振って話します。
「いいや、大丈夫だよ。確かに、普通はそうだけど、知性がある動物は同じ目的があれば、相手を食べたりしないって」
「じゃ、僕らは知性がないの?ココは特別だって言いたいんだ」
マロンが、意地悪な目つきをしてココを睨んでいます。
「いいや、そういうことじゃなくて」
ココは、問題をすり替えられてしまって項垂れました。足元に落ちた燻製を拾いあげ、土を払うと座り込みました。
ポポは「新しいことを知らないと、生きられないの?」と言いたかったのですが、口にしませんでした。ココの言うことがよくわからないし、ココがこれ以上、一人ぼっちになるのを見たくなかったのです。
チクは、思い出したように言います。
「ASCに入るのには、発見や論文がいるだろ。お前、それ、考えてからにした方がいいぜ」
チクは、ずっと前に、ASCのチラシを持ってきた人が母さんに追い払われるのを見ていました。その時、チラシを渡されたチクが入学条件を読んでいたのです。あの時、母さんは顔を赤くして怒り、チクからチラシを取り上げ細裂きました。
「えー、何?ろんぶんって、なに?」
ポポが立ち上がって、マロンの顔を見ます。マロンはポポの手を引っ張って座らせようとしました。
ココが咳払いをして咽喉を整えました。
「僕は、もう考えています」
ココは、鼻の下を伸ばして、胸を張りました。




