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ハリーさん、こんにちは  作者: ゴリラ
森のなか
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21/58

21 引き出しのサムネイル ①

  池の周りの日当たりの良い側には、二人が腰かけるにはいい具合の白い石がありました。背の高い草が風よけになり、額を触るくらいの涼しさが通り抜けるだけです。日差しも和らいで、東屋の下で遠くを望むようなものでした。獣の通り道からも外れているので、二人だけの世界です。白い石は、雨に濡れると艶のある表面が光り綺麗でした。母さんとシルビーさんは、自分に小雨の雫が滴るのも忘れて、手で撫でつけて磨いたものです。その石は、浅い窪みが中央にあり、二人はそこに持ち寄ったおやつを置きます。どこへも行きたくない時、何もすることのない時は、石の上でお喋りをします。学校での噂話や、先生の悪口を話したものです。ルシアン先生の髪型が切りすぎで、笑ってしまうとか、同級生のソフィアが先生の見えないところで意地悪したとか、明日になると、もう忘れているような話です。

 一人が語り、一人が聞く。そんな簡単なことも、二人には遊びになります。目を大きくしたり、口に手を当てて、聞き役は「隣の奥さん」になりきります。おやつの団栗は、シルビーさんと母さんの真ん中で中立です。一粒ひとつぶが袋の中でじっとしています。二人の伏せがちになる目は時折鋭く、はち切れそうな膨らみの実と皺ができて疲れた不服そうな実を見分けています。話の区切りの一呼吸に、一番耳を傾けています。まず、熱心に聞いているのを装いながら、体の重心を斜め前に移します。母さんは後で気づいて身に付けたのですが、「斜め」という点が肝心なのです。直接、正面すぎては、団栗への欲が露わになります。目は話し手を見ながら、袋の口に腕を伸ばし、偶然見つけたように実を指先で挟むのです。実を落としたりしたら、シルビーさんの舌打ちが入ります。そこまでは、母さんも上手にやるのですが、実は難しいのは食べる技でした。シルビーさんは、顎を突き出して手の中に団栗を置きます。直ぐに食べるなんて、子供じみたことはしません。頃合いで、口に入れ、尚且つ賢そうな目つきで頷きながら齧るのです。シルビーさんは、近所の叔母さんたちの大袈裟な身振りも真似ます。もう一つの手で軽く宙をはたいて、笑いかける姿には、「叔母さん?」と問いかけたくなるほどです。母さんがシルビーさんに蝿でも払うような仕草で応えますが、シルビーさんは「今のは、何?」と説いたげな目つきをします。そんな時、母さんは慌てて団栗を掴み、口に放り込むのです。

 シルビーさんは、幼い時から、しわがれた声ですから、茶話会遊びの名優でした。奥さん同士のお喋りには、あの大人びた物言いは欠かせません。上臼が穀物を抑え込んで動く音に似ています。台詞だって、本物です。シルビーさんは、「まあー、あんまり痩せて誰かわからなかったわ、あなた」などと言うので、母さんは我慢しきれずに体を横たえて大声で笑います。シルビーさんはお茶会を台無しにすると言って、滑舌のよい女の先生のような口ぶりで真顔になって怒りました。止まらない笑いが母さんの目尻に皺をつくります。笑いは、嗚咽になりました。そこに貯まる涙を震える指で拭うのですが、可笑しさが息をする度にこみ上げ、母さんはまた吹き出して笑い、身を縮めて転がります。母さんのふっくらとした腕を掴み、シルビーさんは痩せた体を突っ張り棒のようにして引っ張ります。母さんが重すぎて、自分の体を放り投げるようにシルビーさんも倒れます。大抵、最後には、二人で大笑いして終わるのでした。


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