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追い剥ぎ街道

作者: 後藤章倫

この集落から隣の集落へ行くには遠回りをして険しい山肌を進むか、高い船賃を払って海へ出て更に先の集落から戻ってくるか、この道を通るかの三つの選択肢がある。

この道を行けば一里もない距離だからなんて事はないのだけど、殆んどの者は険しい山肌を危険と背中合わせで行く。よっぽど裕福でない限り海からは行く事は出来ない。


なら、何故人々はこの道を通らないのか。


この道は昼間でも日光が射し込む事は無い。暗く、空気も澱んでいる。道を覆い尽くすように不気味な木々が生え散らかし、その木々の陰からは道を見つめる嫌な気配が漂っている。


「隣の集落までどのくらいだい?」

旅の者が翌朝、番頭へ宿代を支払いながら尋ねる。

「山から行かれますか、海からにしますか」

番頭の返事に旅の者は呆れ返った。

「道があるじゃねぇか。いちいち山や海から行く奴があるか」

「旅の人、悪いことは言わないから道を行くのは止めにした方が賢明ですよ」

「その道を行くと、どれくらいだいって聞いてるんだよ」

「隣の集落までだいたい一里もないですけど」

「一里、なんだよ直ぐじゃねぇか」

「出るんですよ」

「出るって何が。まさか幽霊でも出るってのか」

「幽霊ならまだかわいいもので」

旅人はなんだか妙なものを感じとったけど、腕っぷしには自信があった。

「なんだい、追い剥ぎか何かでも出るってか」

番頭はそれを聞いて伏し目がちに頷いた。

「ハハハ、追い剥ぎなんか返り討ちにしてやるってもんだ」

そう言って宿を出て行った。天気の良い清々しい朝だった。集落のはずれ近くまで来た時、一軒の家から子どもが出てきて首を横に振った。

「おいちゃん、この先は止めといた方がが良いよ。行くならそこの脇から山のほうへ行くといい」

「追い剥ぎだろ、大丈夫だって、俺がギタンギタンにしてやるから」

旅人は子どもにそう言って先を急いだ。


いつの間にか暗くなっていた。さっきまであんなに天気が良かったのに廻りは薄暗く夜に近い感じだ。それでも一歩踏み出すと驚愕した。道の真ん中に生首があって、此方を見て笑っていた。旅人の感情は段々と怒りに遂行していった。

「なんだよアレ、ムカつくな。写メ撮ってインスタにでも晒したろか」

そうは言っても、まだこの時代にはスマートフォンもインスタグラムも存在していなかった。それでも怒りの導火線に火がついた旅人は、生首へ向かってダッシュし、それを蹴りあげた。生首は「ケケケケケ」と声をあげながら街道沿いの木々へ何度かぶつかり、闇へと消え飛んで行った。旅人はようやくスッキリしてまた進み出す。すると、いかにもな演出が始まった。

先ず黒猫が旅人の前を横切り、直後にカラスが数十羽飛び立った。そのあと絵に描いたような悪者みたいのが二人、三人と木々の間から出てきて、最終的には二十人程になった。旅人は思った。

「ヤバくね?」

そのとおりヤバかった。手に各々鉈や鍬、玄翁なんかを握りしめた悪そうな奴らがじわりじわりと詰めてきた。

が、よく見ると何か、年寄りだった。旅人は思った。

「楽勝やーん(はあと)」

最前列の二人が鎌を振り上げながら襲いかかってきたけど、余裕でぶちのめした。悪者の年寄りは即死した。そのあとも次々と老人たちは襲いかかってきたけど、潰されても潰されても行進を止めない蟻みたいなもので、旅人は笑いながら虐殺していった。最後のひとりを殺してから老人たちを身ぐるみ剥がしたけど、たいした金品は得られなかった。旅人は意気揚々と街道を進んだ。

「なんだよ、あのポンコツな追い剥ぎ共は」

そんな事を呟きながら街道を抜けようとしていた。向こうに光がみえる。旅人の気が緩んだその時、サッカーボールを少し小さくしたくらいのものが旅人の後頭部へ激突した。頭蓋骨が砕け、そこで旅人は絶命した。


「ケケケケケ」

そのものは奇妙な声で笑っていた。



〈了〉

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