さよなら
「それではご達者で。
わたくしどもも空の上から応援しております。」
サラさんがうやうやしく頭を下げる。
この二日の間、随分とお世話になった。
この人いなかったら僕は何回死んでるんだろう
考えたくもない、縁起悪い。
「こちらこそ。お世話になりました。
また機会があったらこっちにも来ますので。」
「さ、帰んぞ。」
ぶっきらぼうに言い放ったセルに手を引かれるまま、
彼女が指をはじくと共に僕の体は光に包まれていった。
◇◇◇
着地した先は何時ぞやのいざこざがあった城壁の上。
すっかり日も高くなってしまっていた。
エデンとはまた少し違う空気の匂いに
改めて地上に帰ってきたことを実感させられた。
セルが僕の方を見る。
いつになく真剣な様子でまっすぐに僕の方を見つめていた。
「お前の手に負えない時は俺を頼れ。
分かったな?“ガブ”。」
セルは僕を始めて「ガブ」と呼んだ。
それはつまり…
「認めてくれるってことでいいんですか?」
「バ、バカ、勘違いすんな。
お前みたいな未熟な天使なんざ“まだ”認めねぇよ。」
ふぅん、“まだ”ねぇ。
「お前はこれからもっと守るモンが増えてくはずだ。
それ全部守れるようになれ、そしたら俺はお前を認めてやる。」
僕には分かった。セルは僕を見てはいない。
もっと言うならば僕を通して僕以外の誰かを同時に見ているような気がした。
恐らくそれは先代のガブリエル、
彼女もこれからの僕と同じくたくさんの守るべきものを背負っていたんだろう。
そしてそれを守り切った、
自分の存在を引き換えにして。
だからセルもこうやって彼女を今でも認めてるんだろう。
僕も早く超えなきゃならない。
先代に速く追いつけるように、守れるように、天使として認めてもらうためにも。
「いつかきっと認めてくださいね。」
「それはお前次第だな。」
魔法を使おうとした矢先、セルの顔が険しくなったため中断。
どうやら「折角教えたんだから認識阻害使え」とのこと。
僕としても念願の認識阻害だし…使ってみようかな?
教えられたとおりに認識阻害を発動させたが自分で確認することはできない。
が、目の前のセルのご満悦な表情から見るにどうやら成功したんだろう。
翼が展開し、体がふわりと宙に浮く。
「抜き打ちで見に行くからな。」
セルが恐ろしいことを口にする。
「日々精進」
この五日間の間に何度聞いただろうか。
それが実践できているかどうかこの天使様は見に来るらしい。
「なんか文句あんのか?」
「…ないです。」
この状況で元気よく「ありますッ!!」なんて言えねぇ…
と思いつつ、まぁこうなることも大体予想はついていたからノーダメージ。
なんて考えているとセルが空中でふっと指を振る。
現れたのは小窓のようなもの。
その中には王都の郵便屋、
ちょうど今から帰ろうとしていたその場所が映し出される。
「マギアってやつが随分ご立腹みてぇだ。
さっさと帰らえねぇと怖ぇぞ。」
そういうことはさっさと言えや!!
思わず先輩天使に向かって吐き出しそうになったところを慌てて抑え込む。
こんなの言ってしまえば腹いせに特訓が伸びるかもしれない。
そうなる前に帰ろ…
「それではお邪魔しました。
また来るときはみんな連れてきますね。」
「おう、いつでも遊びに来い。
そんときゃ、稽古つけてやるよ。」
お手柔らかに…と思いつつ、北の都の城壁から転移する。
視界が光に満たされていき、じきに見えなくなった
◇◇◇
(あの子、どうかしら?
随分と適性があるように思えたんだけど)
「あの時と比べりゃまだマシだな。」
(てことは今は認めてるのかしら?)
「うるせえよ。何も相談なしに勝手に決めやがって。
これでポンコツだったらどう責任取ったんだ?」
女神はその問いに対し、くすくすと笑う。
(そんな心配なかったわ、だってあの子は…
おっとお仕事の時間だわ。それじゃ失礼するわね。)
そう言い残し女神はセルフィエルとの会話を終える。
「あんの女神、逃げやがったな…」