魔装天輪
あの後セルに散々しぼられた。
天使における頭の輪の歴史からその意味、能力についてまで説教に合わせて語られた。
最後はセルが魔法で湖を割って取ってくれたんだけど。
それなら最初のお説教いらないよね?とは思ったがお口をチャック。
余計なお小言は増やしたくない。
「仕方ねぇ、ヒントをやる。
俺は確かに魔法は使わなかった、直接はな…」
そう言い残すと彼女は再び定位置に戻ってしまう。
魔法を使ってなかった…
うん、それは分かる。
セルの魔法は何度か見たけど、その魔法はセルからは微塵も感じなかった。
意味深に言い残した「直接は」の一言が妙に引っかかる。
使ってないけど使ってた…
セル自身は…使ってなかった…?
「つまりは…」
自身で魔法を使わずとも魔法を使う方法…
(何か大切なことを見落としてる…何か引っかかる…)
その時だった。
セルのお説教の一節が頭をよぎる。
たしかセルはこんなことを言っていた。
「てめぇ…その頭の輪は甘えが天使であることの証明だ。
体の一部と思え、死んでも手放すんじゃねぇ。」
(体の一部…?)
ふと頭に浮かんだ可能性、
いつもなら笑い飛ばしてしまうようなそれも今ならできそうな気がした。
だってここはエデンの園。
願えば叶う場所なのだから。
「構えろ」
薄く目を開けたセルが小さく呟く。
セルが竿を引くにつれて徐々に水面が騒がしくなってきた。
さっきまでとは何かが違う。
水の底からひしひしと感じる凶悪な雰囲気に飲み込まれてしまいそうになる。
「ほぉ、こりゃまた何の因果かな。」
湖全体が荒れ、ついに湖面が割れた。
中から躍り出た巨体は忘れもしないあの時の魔物。
いつかサラさんに守ってもらった時に感じた無力感、
でも今はもうそんなもの一つも感じない。
心は雲一つなく晴れ渡っている。
金の輪が空気を切り裂いて飛ぶのはさっきと同じ。
でも僕の予想が正しければ結果は必ず変わるはずだ。
勢いよく跳ね上がった魔物が日の光を遮って影を作る。
刹那、その影を一筋の金の光が駆け抜けた。
「なったな。」
空を見上げ、ぼそりとセルがつぶやく。
その目線の先に魔物の姿はもうなかった。
あるのは真っ二つになった数秒前まで魔物だったモノ。
よかった、うまくいった…
天使の力を宿す天使の輪。
それが一切何も効くことなく落とされたのには違和感を感じていた。
そこで思い出したのがセルの言葉。
「ここでは願えば何でも叶う」という言葉。
エデンの魔物は人々が生前に抱いた負の感情から生み出されるもの。
つまりそれは一生かけても拭い去れなかったものだ。
忘れようとして一時的には忘れられても心の底には深く染み付いてしまっているものだ。
そんなのが形を成してしまったら?
その負の感情を持っている人たちはどれほどいたんだろうか。
その人たちがどうにもできないと思ったものが形を成したのなら
天使の力が効かなかったのも納得はできる。
ならばどうするか?
その答えはセルが教えてくれた。
セルの暴力的なまでの力、そして間接的に使ったという魔法。
物理的な力と天使の魔法。
その二つを同時に使って切れないものを強制的に力ずくで叩き切る。
まさにセルらしいと言えばセルらしい。
「魔装天輪…って言ったところかな?」
「正解だ。」
ニヤリとセルが笑う。




