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特訓

体が痛い。

何かごつごつしたものの上に寝そべってるみたいだ…


「おい、起きろ。

もう日が昇っちまったじゃねぇかよ。」


いつの間に寝てたんだろ…

昨日は確かサラさんに色んな所に連れてってもらって、

その後どうしたんだっけ…?


そうだ。たしかセルの所に連れてかれて…


「起きたか?今日から特訓始めるって言ってんのに

ねぼすけとは良い度胸じゃねぇか?」


寝ぼけ眼で周りを見渡す。

ここは…


目が覚めてくるにしたがって周囲の景色がはっきり見えるようになる。


山に囲まれた谷、日の光を受けて輝く水面、涼しい風。

ここって…


昨日来たトコじゃん!?


◇◇◇


セル曰く、今から始めるのは特訓らしい。

それも天使としてのポテンシャルは一切関係なし。

前とはどうやら気が変わったみたいで、

天使として以前に基礎的な能力を向上させる気になったらしい。


「ってわけで俺が直々にお前を鍛えることにした。

まぁ精々死ぬな、頑張れよ。」


そういいながらセルは呑気に欠伸をしながら湖に糸を垂らす。

天使が釣りって…

まるで風景に合ってない。


しばらくすると竿を握ったまま、彼女は舟をこぎ始めた。

温かい日差しの下、ぽかぽか陽気の小春日和ならこうなるのも仕方ない。


なんか僕も眠くなってきた。

なんかいきなり連れてこられて起こされて、

何をするかも伝えられぬままここにいるんだからうたた寝の一つくらい許されるよね?


「おやす…」


「きたぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


精神統一中(だったはず)のセルがいきなり叫んだことで

意識は現実に引き戻される。

釣竿を一気に振りぬいて彼女が湖から半ば引っこ抜いたように釣り上げたのは巨大な魚。


以前のそれよりは小さいものの

その巨躯は僕一人殺すなんて造作もない程。

そんなのが今まさにセルに向かって牙をむいている。


「セr…」


「あぁ大丈夫だ、問題ねぇ。」


迫る巨躯に目も向けずセルが言い放った直後、

その魚は一瞬で絶命した。


いや、まだ生きてる。

地面に落ちたそれは三枚おろしにされてなお筋肉が動き続けている。

まるで自分が裁かれたことに気付いていないかのように。


「訓練と飯も兼ねてだ。

安心しろ、俺が死ぬことはねぇ。」


日の光を浴びて不敵に笑うセルが少し怖いと思えてしまった。


◇◇◇


「訓練とご飯…」


まるで何も変なことは言っていないようないごく自然な流れで

目の前の魚を飯だと言ったセルに突っ込まざるを得なかった。


いきなり連れてこられる→釣り→トラウマの魚→訓練と飯宣告


普通ならこんなことしようとは思わない。

だって昨日はセルに晩御飯ごちそうになったんだもん。

何不自由ないはずなのになんで今更こんなことするんだろ…


「何度も言わせんな。俺は今日からお前を鍛える。

方法は実践あるのみだ。

さらには俺から決して手を出さんように言ってある。

さぁ始めようぜ。」


日の光を背にした彼女の顔は逆光でよく見えない。

でも悪い顔で笑ってる、それだけは分かった。


◇◇◇


セル曰く、ここエデンの園は地上とは違うらしい。

願えば叶ってしまう世界、

それ故に天使が力を持つのだという。


そしてその対象は死者の魂も例外ではない。

死者の魂が転生に向けて一時的にエデンで生活する際、

生前のトラウマなどを思い出してしまうとその思いが具現化、

集まっては時折あんなことになってしまうんだとか…


それを駆除するのも天使の役割なんだってさ。

シラナカッタナァ。


とはいえ問題はかなり深刻なようで

どうにも最近、こんな感じの魔物がエデンで急増してるんだとか。

天使が地上に行ってる間に天族の皆が倒してくれたり、

ミカエル様も手は打ってるらしいんだけど

どうにも減るどころか増加の一途をたどってるんだとか。


「つう訳で、お前には訓練がてらこの魔物を倒せるようになってもらう。

いくらミカエルに認められたからってそれで終わりじゃねぇ。

お前はもう守る立場なんだ。

腹くくれ、腹を。」


そうだ。もう守られてばかりじゃいけない。

守られてばかりでいたくない。


「セルくらい強くなれるかな…?」


「そりゃ無理だな。いくらお前が鍛錬を積んだところで俺の足元にも及ばねぇよ。

でもそこに辿り着けなきゃ俺に並ぶなんて夢のまた夢だぞ。

ンな細かいことは気にすんな。前向け、前。」


セルが肩を叩く。

いつもなら痛いだけのはずのそれも今日は一味違うような気がした。


トラウマ?恐怖?

そんなの関係ない、そんなのいらない。

僕がいつかセルに並べるように、認めてもらえるように。


大切な人を守れるように。



サラさんはいない。

セル直々に頼んで今日は非番にしてもらったらしい。

そうでもしないと陰で見守ってそうだったからとのこと。


つまりはいざとなったら手を貸してくれるのはセルのみ。


そのセルも手を貸してくれるかは分からない。

多分貸してくれない。


サラさんがいかに優しいか思い知らされた。


「俺はサラほど甘くねぇ。

死にそなくらいじゃ助けねぇからな。」


ほらやっぱり…


でもそれでいい。

僕だけの力でやらなきゃいつかマギアもルロイもジェリアも失ってしまうかもしれない。

僕はそれが怖い。

気付けば自分の手から大切な命がこぼれ落ちてしまうなんてこと考えたくない。


気付けばセルはさっきみたく湖のほとりに腰かけて

呑気に糸を垂らしている。


僕に覚悟を問う気もさらさらないらしい。

でもそれくらいの方が力抜けていいかな。



「さぁ構えろよ。」


舟をこいでたセルがうっすらと目を開けたかと思いきや

ぼそっとつぶやく。

注意しなければ聞こえなかったようなそれを合図にセルが竿を引き上げた。


空中に放り出されたのはさっきのよりも小さいサイズの魚。

それでも侮ることなかれ。

喰らいつかれようものなら胴体が泣き別れになってしまうだろう。


「天輪!!」


セルから直々に教わった技。

天使の頭の輪っかは武器になる。


さっきのセルの三枚おろし。

魔法を使った様には見えなかった。

それに切り口はまるで刃物を使ったかのように乱れ一つないもの。


三日三晩で叩きこまれた技は体が覚えている。

ぶれることなく空中で弧を描き、目の前の魔物を打ち破る。


…ハズだった。


たしかにとんだ

そらまでとんだ

そらまでとんで

あたっておちた


セルのようにうまくいくはずもなく

魔物の体に鈍い音を立てて激突。

魔物はその勢いで吹っ飛ばされたがそんなの問題じゃない。


「てんめぇ、何やってんだ!?」


頭の輪っかがね…そのまま湖に落ちちゃった…



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