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天使の問いかけ

「すまないな後釜君。お見苦しいものを見せた。」


さっきの落下事件の衝撃波で消し飛んだテーブルはいつの間にか復活していた。

流石はエデンの園というべきか、

落下一つとっても被害の規模が地上とは比べ物にもならない。


元のものと何一つ変わらないテーブル。

でもセルが何食わぬ顔で座ってるところを見るに大丈夫なんだろう。

何かあったらセルのせいにしよう。


「改めて君が八、いや七大天使の空いた枠を埋めてくれた者だね。

ようこそ私たちの世界へ。

私は君を歓迎するよ、ヒルト・クリネ君。」


時間が止まったかのように感じた。

そのくらいの衝撃だった、

セルにだって言い当てられなかった自分の名前。


まさかこんなところで久しぶりにコンニチハするとは微塵も思っていなかった。


「どうしてそれを…」


「セルから聞いてるだろう?

君は女神シルラのお気に入りだ、理由は知らないがな。

そこで興味が湧いた、だから招いたというわけだ。」


「その間に連絡を忘れたってわけだな。」


「そ、それは終わった話だろう!!」


つまり僕の情報は女神様を通じて天使の皆様方へ伝わっていたというわけだ。

ミカエル様がこの場でウソをついてるとも思えないし、

セルだって僕のことを知っていた。


別にバレて何かあるというわけでもないんだけど。

僕のプライバシーは完全に何処かに捨て去られてるみたいデスネ。


「君がこの役割を引き受けてくれたこと感謝する。

まぁなんだ、存分にくつろいでいくといい。」


この喋り方といい、たたずまいといい、どこかで見たことあるような…

誰だっけ…


「おい後釜君、聞こえてるか?」


気付けばすぐそこにミカエル様の顔があった。

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!!

考え事→至近距離にミカエル様→でこをくっつけられてる!?


「どうやら熱はないようだが…」


「ぴぎゃッ!?」


座っていた椅子を蹴り飛ばして尻もちついて後ずさり。


ミカエル様がそう言う横でセルはケーキスタンドから

ケーキをとってはもしゃもしゃ食べてる。


少しは恥じらいというものを…

とも言おうとはしたがこれ以上厄介事を増やすのはごめんだ。

開きかけた口が一瞬で閉じる。


(ミカエル様の目、きれいだったな…。じゃない。)


今考えればたたずまいも、喋り方も、ドジさは…違うか。

それでも手を差し伸べる姿、

日の光が逆光になった彼女の姿が一瞬、ルーナ様に見えてしまった。


「あ…すみません。」


手を借りて立ち上がるもなんだか複雑な気分…

エデンに来たっていうのに疲れが取れないって言うか、日常を感じてしまうと言うか…


その時だった。

あたり一帯から音が消える。

横には相変わらず両手にケーキをもってほおばるセルの姿が。

ただし音は一切聞こえない。

こちらに向かって何か話しかけてきてはいるものの、その一切が聞こえない。


「これは消音結界とは違う、君の心を一人ぼっちにする魔法さ。

そこに私は無理やり入り込んでいる。

さぁ早く答え給え、さもなくば心が壊れちゃうぞ?」


何も聞こえない、気付けば真っ暗な空間にたった一人で立っていた。

周りには何もない、誰もいない。

ミカエル様の声がどこからか響き渡っている。


僕が天使になってやりたいこと…

そういえばこうしていま生きてるのも成り行きで、

正直な話、仕事の途中で死んだから早く生き返らせてくれって頼んだのがきっかけで。

そうして今の体と力を得た。


(僕って一体、何がしたいんだろう…)


僕は自分が何をしたいのか考えたこともなかった。


「君は人間含め他の種族と随分、交流しているようじゃないか。

それはどうしてかな?」


「それは僕が人と人、種族と種族を繋ぐ…」


「それは結構、」


◇◇◇


「君が少なからず義務感を持っていることは理解した。

だが私が聞きたいのは君の思いだ。

君の真に思うことを聞かせてくれないか?」


義務でもなんでもない僕の真なる部分。

それは恐らく僕のジェリアやマギア、ルロイや


今僕がこうしているから、紡げた絆も守れた笑顔もある。

これからも守り続けられるは分からない。でも少なくともすぐそばで見ていたい。

紡いだ縁は、育んだ繋がりは、

今の僕じゃないと見つけられなかったものだ。


「後悔はしてないか?大いなる力には大いなる代償が伴うというのは常識だが。

君の例外ではないかもしれないぞ。」


「いえ、全く。」


後悔なんかするはずない。

後悔なんかしたくない、後悔してしまえば僕が大切に思うもの全てを否定してしまうかもしれないから。

だから僕は後悔しない。


ヒルト・クリネとして歩んだ人生も楽しかった。

でもその思いも記憶も全部、今の僕が持ってる。

一緒に連れて来てる。

それで十分だ。


黒一色の空間に光が差す。

ミカエル様の声は徐々に小さくなりながらもなぜか今まで以上によく聞こえた。


「自分の存在する意味を他者を軸に考えてしまうと、その身を滅ぼしてしまう。

私からのせめてもの忠告だ。

他者との繋がりを守りたいのは大いに結構。

だが覚えていてほしい、君の生きる道は君だけのものだ。

自分を大切にしたまえ。」


視界が白で満たされる。


◇◇◇


「どうした?お前の分も俺が食っちまうぞ?」


気付けばセルが僕のスタンドの方にも手を出してきていた。

その手をサラさんがパチンとはじく。

その様子をほほえましそうに見守るミカエル様。

僕に気付いたみたいでほほ笑んできた。


さっきの時間は存在したのか、そもそもあの声がミカエル様のものだったのかは神のみぞ知る。


(自分を大切にねぇ…)


その真意がいかなるものかは分からない。

僕の思いに正直にこれからも進んでいけということかもしれないし、

これ以上余計な縁を作るなという忠告だったのかもしれない。


僕の生きる道は僕だけのものだ。

後悔しないように生きていかねば…


「覚悟は決まったかい?」


「えぇもちろん。」


今の僕の心には雲一つない。

まるで晴れ渡ったエデンの空のように。


「私たちは家族だ。エデンに生きとし生ける魂もすべて含めてね。

だから君は守らなくてはいけない。

そして私たちはこの命に代えても家族を消させはしない。

君はその重責を背負った、そのことをよく理解してくれたまえ。」


天使としての責任、その言葉は重かった。

でもなぜだろう。

どこか清々しいような、晴れ渡った心にその言葉は不思議と染み渡る。


「セル、君から見て彼はどうだろうか?

これから使命を全うできるように思えるかな?」


「知らん、それはこいつがこれから歩んでいく過程の中で身に付けるこった。

未来の事なんざ俺らにだって分かんねぇよ。」


セルがぶっきらぼうに言い放つ。

それを見たミカエル様が「素直じゃないね」と一言。

セルの端正な顔に青筋が浮かんだものの、すぐに収まった。


「さて、私が聞きたいことは聞けたが。

セル、君からは何かあるかな?」


顎に手を当て首をかしげ、宙に目を泳がせる。

サラさんがそんなセルに一言だけ耳打ちした。


「んだなぁ…まぁなんだ、精々死ぬなってこった。

死んだら殺してやるからな、覚悟してやがれ。」


ミカエル様がふっと笑い、指を一回鳴らす。

周囲が光に包まれた。


「   」


その中で彼女が口を開く、しかし声は聞こえない。



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