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ほほえましき...なんとやら

セルもミカエル様が出てくると同時に大人しくなった。

と言うよりも無理やり大人しくさせられた感じ。

手を離したと言うより、有無を言わさず引き離されたような感じ。

従ったと言うより、従わされたかのような不自然さがあった。


「セル、こちらに不手際があったみたいだ…すまない。

私からもきちんと事前に話しておかなければいけないとは思っていたのだが…

その…時間がなくてな。」


「そうならそうと言え。余計な世話するところだったじゃねぇかよ。」


どうやらセルも納得したみたいで矛を収めたようだった。

曇って低い雷鳴が響いていた空も徐々に晴れ、今ではすっかり温かい日差しが差している。


ミカエル様が言うには、

僕の話は聞いていたが個人的に興味があったため少し遊んだこと。

その連絡をするのをすっかり忘れていたらしい。


以前にセルから聞いていた天使同士の本気の喧嘩、その片鱗を垣間見た気がした。


神殿は大理石の柱が立ち並び、

その隙間から見える柱に囲まれた広間にはただっ広い空間が広がっており

まるで天使の一柱が暮らしているようには見えない。


「さ、どうぞ入り給え。今日の主役は君なんだからな。」


まるで何事もなかったかのようにそう言って

神殿の階段に足をかけるミカエル様、

セルがしぶしぶと、サラさんはそのセルの後ろにぴたりとくっついて彼女の後に続く。

僕もそれに倣って足をかけてその時だった。


視界が開ける。


いや、視界が開けたわけじゃない。

目で見ているはずなのにそれだけでは到底見ることができないほどに

視覚を通して周囲の全てを感じる。


はるか遠くに見えた花園で小鳥がさえずる声も、

風の音も、花の匂いもその全てが視界だけじゃない。

五感にいつも以上に強く語りかけてくるようだった。


言うなれば感覚が開かれたような、

こじ開けらえたような、そんな感じ。


気付けば周囲は宮殿のような内装に変化している。

さっきまで外にいたはず、

それに柱に囲まれた空間にはこんな場所はなかった。


「この感覚にも少しずつ慣れていってくれ。

私の方じゃどうしようもできないみたいなんでな。」


目の前にいつの間にか現れた椅子に

いつの間にか座っていたセルに手招きされるがままそばに行き、

そこにあった椅子に座る。


「ミカエルの力は強い。だからこそ俺ら天使をまとめれてる。

ちょっと居心地悪いかもしんないが勘弁しろよ。」


耳のそばに突如寄ってきたセルに教えられる。

これまでしたことない体験だった。

セルもいつもより力み、何かに抵抗しているようだった。

恐らくはミカエル様の力。


天使相手、特にセル相手にここまでとは…


「改めましてようこそエデンの園へ。

私は大天使ミカエル、ここの管理をしてるいる者にして天使を統括する者。

詳しいことはお茶でもしながら話そうか。」


テーブルの上のポットにてお茶を自ら入れようとするミカエル様。

自分の分くらい自分でやるからと止めようとした矢先だった。

彼女の手からポットが滑り落ちる。

落ちた先は皿の上、

落ちどころが悪かったのか皿は跳ね上げられ、壁にかかった絵にぶつかる。


重い音を立てて絵が床に落ち、

衝撃で建物全体が低い音を立てて揺れた。


それで終わればまだマシだった…


自分に上から何かが軋むような音が聞こえる。

セルは眉間に手を当て、ため息をついた。


その瞬間、シャンデリアが僕たちに向かって落下を始める。

尖った装飾の矛先が向くはミカエル様。


「!?」


反射的に動きそうになった瞬間、セルにその手を制される。

静かに首を横に振る彼女はまさに「やめとけ」と言いたげな表情で

どうやら手を出すなとのことらしい。


サラさんもお付きの天族の方も何食わぬ顔で佇んでいる。


―ズシャァァァァァァァァァァァン


床に落ちたシャンデリアは砕け、破片が周囲に飛び散る。

セルが防御魔法を展開してたお陰でなんとか被弾は免れたが…

周囲の惨状はひどいものだった。


散らばったガラスの破片、

面影など一つも残していないそれは盛大にホコリを巻き上げたせいで

視界が遮られてしまっていた。


「ミカエル、あいつはな…天使としては一級品だ。

だがどうにも、うっかりが治らなくてな…」


目の前の惨状を見てうっかりが原因と言える者はいるのだろうか。

恐らくいない。

ルーナ様でもゼルキアでも分からないと思う。


未だ宙を舞うホコリの中、

何処から出て来たのやら数多の天族たちがシャンデリアの残骸を片付けている。


「そんなことよりミカエル様は!?」


セルが黙って向こうを指さす。

天族たちがせっせと残骸を片付けている現場、

そういえば誰一人としてミカエル様の心配をしていない。


「あはは…びっくりした。

まさかこんなことになるなんてな…」


うずたかく盛られた瓦礫の山に一瞬で亀裂が入り、

園にあったはずの山が瞬時に瓦解した。

何食わぬ顔でそこから出て来たのは服にホコリ一つついていない

さっきと何一つ様子の変わらないミカエル様。


「てめぇ、前からずっとそのうっかり直せつってんだろ!?」


「その…すまない。私としては治したくとも直らなくてな。

どうしたものか…何か解決策はないか?後釜。」


「自分で考えやがれ…」


「あでっ!?」


後頭部に入ったチョップにミカエル様がもだえる。

あ、それはダメージ入るんですね…

よく見ると涙目になってるような気もする。

しばらく悶絶した後彼女は僕が見ているのも気にすることなくセルと口論を始める。


聞こえてきた単語だけ拾えば、

「ドジ」だの「チョップ」だの「やりすぎ」だの「痛かった」だの…

ほほえましくて大変よろしいと言おうと思ったんだけど…

どうにも言えないみたい。


お互いにそこそこ険悪になってきたみたいで

間一髪魔法が炸裂する直前にサラさんとミカエル様の天族のが止めに入った。

なんとかセルとミカエル様を羽交い絞めにして

喧嘩は勃発することなく収まった。


その後、随分と長くお説教は続いた、

二人仲良く並んで正座させられて。

ホントはやっぱり仲良しだよね…?



<次回予告>

やぁ、少年少女たち。ご機嫌いかがかな?

私の名は大天使ミカエル、七大天使の長を務めている者だ。


いやぁ諸君にはお見苦しいものを見せてしまって申し訳ない。

セルにもずっと言われてはいるんだが、どうしても直らなくてな...

不思議なこともあるものだ。


まぁなんだ、エデンを楽しんでいってくれたまえ。


次回、「天使の問いかけ」

君の心の内、覗かさせてくれたまえ。




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