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大天使ミカエル

目を開けて初めに見えたのは神殿。

白の大理石で作られたそれは晴れ渡った青い空とも相まって輝いている。


色とりどりの花が咲き誇る花園に澄み渡るような青い空、

鳥がさえずり、蝶が舞う。


まさに楽園の名に相応しい景色だった。


「あの神殿にミカエルはいる。

なに安心しろ、そこまで怯えるような奴じゃねぇよ。」


「で、でも…」


「いざとなったらセルフィエル様の名前をお出しになってください。

そうすれば万事解決するはずです。」


どうやら僕は何か事が起こればセルを身代わりに使わねばいけないらしい。

サラさんが言うとはいえ、後が心配だ…

主にセルにシメられないかどうか…


「俺はお前を何だと思ってやがる…」


セルはいとも簡単に僕の心を読んできた。

そういえばそうだった。高等な魔法を使う者は全員、例外なく心が読めるんだった。


「初対面の方はあなたのことを狂戦士と思われることが多いようです。」


「てめぇなぁ…」


今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気に急転直下。

こんなほのぼのしたところで喧嘩しないでよ…


今にも火ぶたが切られそうになったその時、

花園に凛とした声が響き渡る。

セルのでもサラさんのでもない、空気が張り詰めるようなそんな只者じゃない雰囲気。


「ようこそお越しくださいました。

ミカエル様がお待ちです。」


頭の上に金の輪を浮かべ、純白の羽が空から舞い落ちる。

元からそこにいたかのように静かにたたずむ彼女の正体、

言われずとも今なら想像がつく。


「おぅ、ミカエルは元気か?

お前も随分久しぶりだが?」


「お気にかけていただきありがとうございます。

ミカエル様含めわたくしどもも何事もなく生活しております。」


以前から知り合いなんだろう。

親しげに話す二人、

特にセルに関しては天族の彼女の肩をバシバシ叩きながら会話している。

音が出るほどセルが叩いても顔色一つ変えない彼女は

サラさんと同じく天族なんだろう。


セルは何やら彼女と話し込んでいるようで

サラさんと話しているときとは打って変わって終始穏やかに話している。

改めてサラさんの天然のおかげで無意識にセルを怒らせてしまっていることが分かった。

現に今、セルと話している彼女は

口を開くこともなく終始頷き続け、まるでセルが意のままに動かされているかのよう。


「今日はこいつを連れてきたんだぜ。」


そう言ってセルはいきなり僕の首根っこをつかむやいなや前に引きずり出す。

予めこうなることを想定していたのか、

それとも本人の性格によるものなのか、

目の前で佇む彼女は顔色一つ変えることはない。


「事情は把握しております。

ミカエル様もお会いになりたいと仰られておりましたので構いませんよ。」


くるりと踵を返し、すたすたと歩き出す。

彼女の行く先、そこに生えた花がまるで彼女を割けるようにして道を作る。

そのまま向かう先は白の神殿。


セルが話していた内容の盗み聞きから判断するに

あの場所にミカエル様がいるのは間違いない。

…どうしよ、僕礼儀作法も何も知らないよ。

もし無礼があって首が飛んだり…


「なに震えてやがる。

大丈夫だ、お前が思ってるほどあいつは短気じゃねぇよ。」


「そうです。ミカエル様はお心が広いので。

それ故、七大天使の長を務められているのです。

ご安心くださいませ。」


先を歩く彼女につられ、できた道を進む。

神殿に近付くにつれ増していく神々しい雰囲気、

それと同時にまるで息が詰まりそうな重苦しい空気を同時に感じた。


横を歩くセルやサラさんの顔もわずかにくもっている。

ミカエル様の天族がその中で唯一悠々と歩いていくのは

セルからも説明された通り、ミカエル様の力によって生み出されているからなんだろう。


◇◇◇


すぐにたどり着くと思っていた神殿は遠く、

見えていた距離よりもはるかに遠い。

周りの景気は永遠と変わることはなく、まるで騙されているかのような感覚に陥る。


先導の天族がふと立ち止まろ振り返る。

その顔にはまるでこちらを試すかのような微笑が浮かんでいた。


「やっぱりか…」


セルがぼやく。

彼女は何かに気付いたようだが何のことか一向に分からない。


「ここまでで何か感じられましたか?」


微笑を浮かべたまま天族の彼女は問う。


「お前ッ、いい加減に…」


何か言おうとしたセルが口をつぐんだ。

彼女の顔は今にも爆発しそうなほどに赤くなっている。。


「失礼を承知のうえで申し上げます。

大天使ガブリエル様、ここまでに何か感じられましたか?」


品定めをせんとこちらを見据える彼女の目は本気だった。

微笑を浮かべ和やかな雰囲気を醸し出しながらもその瞳の奥は笑っていない。

まるで道を阻むかの如く。

答えられなければ通さないと言わんとしていた。


違和感…


目に映った情報は神殿までを確かに近いと言っていた。

でもそれって本当?

ここはエデンの園、天使の力が色濃く表れる場所。

そんなところで自分の中の常識を信じて大丈夫なのか…


理想を現実に引っ張り出す手段が魔法だ。

創造することを媒介にして理想を現実で展開する。

その媒介が魔法だ。

つまり誰かが願えば僕が永久にあの神殿に到達しないことも可能になる。


「ずっとたどり着かないことですか…?

もしかしたら何か魔法がかかってたり…なんちゃって…」


「合格です。」


その声と共に景色ががらりと変化する。

さっきまでいたはずの花園ははるか向こう側、

足元はまるで天使の翼のように純白の大理石。


ここは…


「大天使ミカエル様の神殿にございます。

先ほどのご無礼をお許しください。」


風が吹く。

サラさんが小さく叫ぶのが後ろの方で聞こえた。


瞬く間に案内役の彼女につかみかかったセルの顔は怒りに染まっていた。

恐らくはサラさんも止めようとしたんだろう、

それでも止められなかった、止まらなかった。 

それに、セルのあんな顔見たことない…


「てめぇ、舐めたマネしやがって…

俺がこいつを連れて来た意味、分かんねぇなんて言わねぇよなぁ!!」


周囲の風が吹き荒れ、はるか向こうに見える花園でもたくさんの花びらが

その風を受け、宙を舞い、空に向かって巻き上げられる。

もちろんはるか向こうがそんなのなら、こっちは何か言える余裕もない。


神殿は崩れるかの如く音を立てて軋む。

暴れ狂う風はまさにセルの心の内を表しているかのように思えた。


「俺は一応だがこいつを認めてる。こいつの事情はミカエルだって知ってるはずだ。

それをお前如きが勝手に品定めなんかするんじゃねぇよ。」


一層締め上げられる首。

首をつかまれて持ち上げられた彼女は一切抵抗しようとしない。


「サラさん…助けないんですか…」


「わたくしはセルフィエル様にこの身をささげる者です。

他の天使様に関わることに首を突っ込むことがあってはならない。

これは決まりなのです。

それぞれの天使の間で極力、諍いが起こらないよう。不可侵が原則なのです…」


サラさんが唇をかむ。

淡々とした口調ではあったが、何も思うところがないようではなかった。

握った拳は下ろされ、震えている。


いくら自分の主人が手を下しているとはいえ、

その粛清対象は自分と同じ天族。

彼女だって助けられる物なら助けたいはずだ、それでも助けられない。


自らの使命と同族への思い。

二つの間で揺れ動く彼女の心が見て取れた。


サラさんはセルを止めれない…

なら僕なら…


「その子を離せ、セル。」


風が一瞬止んだ。

セルの手が離れ、その視線は声の方向に釘付けになる。


なんで今まで気付かなかったんだろう。

その神々しい雰囲気、

セル以上に大きな存在であることは確信させるようにそれは僕に届く。


「お前がこんなつまんねぇことやるように言ったのか?」


「そうだ。だが勘違いしないように。

君を信用してないわけじゃない。

私の目で確かめたかった、だってその子は特別だからな。」


慈愛に満ちた表情で諭す金髪の天使。

この雰囲気、セルが言っていた…


「む、すまない。私としたことがお客人をそっちのけにしてしまうなど…

始めまして、私は大天使が一柱、ミカエル。

よろしく、後釜。」



<次回予告>

なんというか...混沌とした雰囲気に耐えられない。


セルがぶち切れて、僕なんかじゃ止められないだろうし、

頼みの綱のサラさんも口を挟めないみたい。

そんな時に現れた大天使ミカエル様って。


あぁもう、混沌...

今からの身の振り方考えないとなぁ...


次回「ほほえましき...なんとやら」

この雰囲気、どうするの?


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