エデンの園
頑張った者にはご褒美を。
これがセルの中の決まりだそうで、
僕の予定が空いていることをどこから知ったのか、明日からは北の都を案内してくれるそうだ。
「ほれ、これお前のだろ?」と言い彼女が取り出したのは
マギアが作成した休暇届。
いつどこから盗ったのか…
やっぱり天使の力っていうのは恐ろしいな。
「これまでの扱きを五体満足で終えたご褒美だ。
明日からは文字通り羽を伸ばすといい。」
言うやいなや周囲の景色が瞬き一つの間に変わる。
そこは白く温かい光が広がる世界、
数々の花が咲き乱れる花園だった。
風が吹き、花びらが舞う。
まるで雲のように視界を覆いつくしたそれが晴れる頃、
さっきまでいなかったはずの女性がそこに立っていた。
「おかえりなさいませ、セルフィエル様。」
うやうやしく頭を下げる彼女の頭の上には金の輪が輝いていた。
◇◇◇
「ンなお堅いの、俺は苦手だって言ったよな?
やめろ…むず痒くなんだろ。」
「そう言われましてもここでは私の役割はあなた様に尽くすことです。
ミカエル様からもそのように仰せつかっておりますので…」
ミカエルの名前を聞いた途端にセルが顔をしかめる。
ミカエル様と言えば七大天使の一柱のはず…
っていうか目の前のこの人は何者なんだ?
目の前でいきなり繰り広げられた
セルと彼女の軽い言い合いに巻き込まれ半ば放心状態の僕。
そしてセルはそんな僕には全く気付かず、片や女性はそんな僕にすぐに気が付いた。
そんなところからもこの人の気遣いというか…
なんと言うかそう言うものを感じる。
まさに完璧超人のような印象を受けた。
それがセルのガサツさとも合わさって何と言うか…ベストマッチ?
「おい、誰がガサツだってんだ?」
「セルフィエル様、お止めください。
はしたないですよ。」
今にも飛びかかろうとしたセルを後ろから羽交い絞めにする彼女。
驚いた…あのセルがジタバタともがくだけで何もできていない。
「わたくし、セルフィエル様にお仕えしております。
サラと申します、以後お見知りおきをガブリエル様。」
相も変わらずセルを羽交い絞めにしながらの自己紹介。
…え、えぇよろしくお願いします。
どうやらサラさんは何処かずれているようで
自分がこのような状況下で自己紹介していることに何の違和感も感じていないようだ。
「俺抜きで話し進めてんじゃねぇ」
なんとかサラさんの拘束を解くも息絶え絶えなセルが言う。
あのセルがここまで…
サラさん、どうやらこの人は優しそうに見えてえげつなく強いのかもしれない。
「ではお話をどうぞ、セルフィエル様。」
そう言うと彼女はセルの後ろに下がる。
「ここはエデンの園、全ての魂が行き着く場所であると同時に
俺たち天使がいるべき場所だ。
こいつらは天族、俺ら天使に昔から使えてくれてる奴らだ。」
「まぁ良くできました。ぱちぱちぱち。」
セルの額に青筋が浮かぶ。
首がギギギと音を立てるようにしてぎこちなく後ろを向いた。
怒りをはらんだその視線を向けられたサラさんは何が起きたのか分からないようで…
(あ、この人天然なんだ。)
恐らくサラさんはセルのことが大好きだ。
だってセルを見る目が娘を見守る親のそれだから。
彼女からにじみ出る雰囲気もどちらかというと母性のそれに近しいものを感じる。
可愛らしく首をかしげているサラさんと
周囲の景色すら歪んで見えるほどに怒りのオーラ全開のセル。
「煽ってんじゃねぇぇぇぇぇぇ」
(なんでこうなるの…)
僕の心からの叫びは悲しきかなセルの放った大爆発に消し飛ばされた。
◇◇◇
爆風が辺り一面を消し飛ばす。
もちろん僕もその例外じゃない。
「セルフィエル様、お止めください。」
爆発が空中で連鎖する中、不思議なことにサラさんの声は耳に響く。
一瞬でセルの背後をとった彼女は僕の目の前に立ちふさがり、
セルの爆撃を相殺するとは言わずとも軽減してみせた。
「煽っていしまったのはごめんなさい。
そろそろ矛を収めていただけませんか?」
「分かったならいいんだよ、分かったら。」
さっきまでの荒々しさが嘘かのように
セルが地上に舞い降りる。
ふわりと音が聞こえるかのように静かに舞い降りたセルは
それこそ天使そのもの。
(これまで天使っぽいトコがないわけじゃないんだけどね…)
いけないけない…
話変えなきゃ、また地雷踏み抜きそうだ。
「そ、そう言えばサラさんってセルとどのくらい一緒にいるんですか?
随分と親しく見えるんですけど…」
セルに何やらお菓子か何かあげて落ち着かせているサラさんが振り返る。
まるで母と娘みたい…
こう見るとセルも年頃の娘みたく見える。
「私がセルフィエル様にお仕えして…
どのくらいでしょうか?覚えておられますか?」
「んだなぁ、大体天地創造の時くらいからじゃねぇか?」
お菓子食べながら言うことじゃないんだよなぁ。
天地創造って…
どのくらい昔なのか全く想像もつかない。
今度、マギアに聞いてみよ。
「天地創造というとわたくしどもをもっても忘れてしまうほど前ですね。」
というと今のセルの年齢は…
その時だった、瞼の裏に火花が散る。
「余計なこと考えるんじゃねぇ!!」
ナイス、サラさん!!
この人、ホントに気が利くと言うか何と言うか。
まるで秘書みたく僕が気になってるのに聞けない所を教えてくれる。
そしてセルは相も変わらず暴力的すぎる。
さっきは天使っぽいとは思ったけど、やっぱナシ!!
これじゃ女番長だよ…
「そういやお前、自分のお付きの天族はいねぇのか?」
思い出したようにセルが言う。
そういえば天族は天使に使えてくれてるって話だ。
それなら僕に…いるのかな?
いてくれてると嬉しいな…
(いるに決まってるじゃないの!!)
「どわぁ!!」
いっきなり話しかけないでほしい。
どうにもこの女神様は僕にサプライズをしなければ気が済まないようで
僕の出した大声にセルは数歩後ずさり。
流石のサラさんもわずかにたじろいだ。
「僕にもお付きの天族がいるってどういうことですか!?」
思わず口に出たそれに反応したのは以外にもサラさんだった。
さっきの爆風の汚れを払ってコホンと咳を一回、教えてくれた。
「天使の皆様に付く天族は一柱につき最低一人。必ずいます。
しかしガブリエル様は顕現されて日が浅いので
まだ…その…何と言いますか…」
サラさんにしては珍しく迷うように視線を泳がせる。
その先にいたセルにパスされた視線も相変わらず泳ぎ続け、
今や明後日の方向へ飛んで行ってしまっていた。
「言うより見た方が速ぇだろ、ほら行くぞ。」
セルがサラさんを遮るようにしてそう言うと
目の前の景色が一瞬にして変わった。




