尋問
「あなたは一体何者ですか?
私たちエルフがダークエルフと敵対していると知ってのことですか?」
仲が悪くて敵対しているとはいえ、
初めましての対応があまりにそっくりで笑いそうになった。
抑えたけども…
横のダークエルフたちも半ば諦め顔。
まさかここまで早く見つかるとは思っていなかった様子だ。
本来ならばこちらから訪ねるのがベストだったんだけど…
今となってはもう仕方がない。
「見た通り、僕はダークエルフ領からの遣いです。
和平の交渉をするために参りました。」
和平の交渉と聞いた途端、エルフたちの顔が曇る。
それだけじゃない。
武器を握ったその手に力がこもったのが見えた。
「なんだ。野蛮なダークエルフは自分たちではどうにもできないから
今度は部外者に協力をあおったというのか?
それでも誇り高き長耳族か?」
気付けば空中にいくつも展開された魔法陣。
その矛先は全て僕たちに向いていた。
空中からとエルフたちが地上から撃つ魔法。
その数はとんでもないものになるかもしれない。
(対処しきれないぞ…)
その時だった。
横に吊るされていたダークエルフたちの姿が消える。
次の瞬間、彼らはエルフたちにとらえられているのが見えた。
この距離を一瞬で…
気付くのが遅かった。
さっきの魔法も今見えてる魔法陣もその全てはフェイク。
意識をそちらに誘導し、
自分たちの目的を隠すための材料に過ぎなかったのかもしれない。
気付けば僕も地上にいた。
手は後ろで縛られ、エルフたちに囲まれている。
「あなた方は敵だ。私たちが受け入れるはずもない。」
その言葉を聞いたのを最後にして僕は気を失ってしまった。
◇◇◇
目が覚めた時、僕はいささかデジャブを感じることになった。
薄暗い地下、わずかに照らされたこの空間の中で
見れる限りのものを見て気付いた。
「僕はお世辞にも歓迎されていない」ということに。
椅子に座らされているところまではいいとして、
問題は後ろで縛られている両手。
歓迎されているのなら少なくともこんな仕打ちはしないだろう。
「それで、あなたがここに来た理由は?」
「さっきも言った通りですが。」
目の前で手を組むエルフの青年がため息をつく。
まるで僕がここに来た目的、和平の交渉に関してどうでもいいといわんばかりに。
「私たちエルフはその交渉に応じる気はありません。
すぐに手を引いてください。
さもなくばあなた諸共…」
こちらをにらんだその目に一瞬の間ではあるものの
得も言えぬ覇気が宿る。
まるで僕を通してダークエルフに憎しみをぶつけようとせんばかりだった。
たしかにエルフから見ればダークエルフは戦争の相手。
両方の種族の間には僕が生まれる前から続いている深い因縁があることも理解はした。
それでも僕には分からない。
「あなたたちが憎んでいるダークエルフたちを
あなたたちは自身の目で見たんですか?
何も知らずにあなたたちは戦争の道具になってるんじゃないですか?」
僕だって知らなかった。
関わらなければ分からなかった、分かろうともしなかっただろう。
本物のダークエルフたちと一緒に過ごして、
いかに自分の世界が狭かったかを思い知らされた。
エルフたちはそのことを知ってるんだろうか。
「ダークエルフのことは伝承を聞くことで理解しています。
だからこそ私たちは戦わなければ…」
「僕はこれまで知りませんでした…」
「何の話ですか?」
身を乗り出した青年を手で制して止める。
今のタイミングしかエルフたちには分かってもらえない。
ここで話さなければ、伝えなければ
僕が平和を望む資格も、思いを届ける資格も失ってしまう。
そんな気がした。
「初めてダークエルフと話して、一緒に過ごして。
人間の伝承とは違って、彼らは完璧じゃなくって、不器用で…
その全てが新鮮だった。だから…決めつけないで。
心配なら大丈夫です、そのために僕がいるんですから。」
青年が落ち着きを取り戻す。
何やら横にいたエルフに耳打ちをするやいなや、
そのエルフは部屋から出て行ってしまった。
「あなたのような得体の知れない人物からの助言を完全に信じることはできません。
しかしウソは付いていない、それだけは分かりました。」
そう言って指さすは机の端に置かれたベル。
曰く、ウソをつけば即座にあのベルが鳴り
ヒドイ目に遭わされる予定だったんだとか…
ヒィィィィィィ、ウソつかんくてよかったぁぁぁ。
だってさ、今でこそ少しは話せる風な空気だけど
さっきまでの刺すような雰囲気と言ったら…冗談抜きで涼しい顔で拷問でもしそうなんだもん。
「これから私たちはあなたたちの証言をもとに処遇を決定します。
それまで大人しく待っているように。」
地獄の尋問が終了し、今度は何処へ連れて行かれるのやら…
◇◇◇
そんな予感はしてた。
尋問が終わって連れてこられた先は独房、
横穴掘って行使をはめただけの粗末の作りの独房だった。
じめじめとした空気がそこいらに漂い、
地下特有の天井から滴り落ちる水が時折首筋に落ちて背中が冷える。
(この感じ、奴隷オークションのときみたいだな…)
あの時はルーナ様が助けに来てくれたけど今回はそれも望めなさそうだ。
それに…助けられたばかりじゃ申し訳ない。
どうにかして自分で抜け出すなりなんなりしないといけないんだけども。
(抜け出したりなんかしたらまずいよなぁ…)
僕個人の問題ならいざ知らず、
今の僕はあろうことか国単位での指名を背負っている(背負わされている)。
これ以上外交的な問題に発展させるのは
いささかマズかろう。
「さてっと…どうするかなぁ。」
とは言ったもののどうにもできない。