不仲の真相と和平の使途
「我らが互いに敵対している理由、
それははるか昔、まだ我らにまだ交流があったころの話だ。」
事の真相を王は語った。
その内容に僕は耳を疑うことになる。
「ある時、一人の女が現れた。大層美しい女だったそうだ。
その者が互いの領主を誘惑し、戦いに勝利した者を選ぶと告げる。
結果、互いの領主は相討ちし
それ以降我らは互いを仇とするようになったというわけじゃ。」
まさしく傾国の美女が原因で互いを恨みあうようになった。
物語の中ではよく聞く話ではあるものの実際にあるとは思わなかった。
もしかするとこの実話が人間によって編集された結果、
僕の知る物語になった可能性もある。
長寿なことで有名なエルフとダークエルフ、
その王でさえはるか昔というのだからそれは人間では想像もできないほどなのだろう。
「それで、その女性は…?」
王がため息をつく。
僕も聞いた時点でいくらか想像は付いていた。
でもまさか…そんなはず…
「その女の行方を知るものは誰一人としておらん。
今やこの話を知るものも少なくなった。
戦う理由を知らずして戦う者も多くなっているのが事実だ。」
想像したくなかった。
これじゃまるで二つの種族が操り人形にされて
戦わされているみたいじゃないか…
時代が進み、戦いの勃発も過去のことになってしまった。
知ってしまえば戦うことがバカらしくなって滅ぼされるのを待つ一方、
知らなければ死ぬまで操り人形。
でも彼らは長寿だ。
そう簡単に死ねるわけがない。
「だから和平交渉を?」
「そうだ。」
それでも疑問は残る。
なぜ今になって、それに僕みたいな部外者に…
「お主を使途とするのには理由がある。」
王が広間を見渡すと同時に
僕も同じようにして周囲を見渡す。
そして気づいた。
さっきまでいたはずのダークエルフたちが
まるで初めからいなかったかのように消えている。
さっきまで僕の横にいたはずのダークエルフもいつの間にか姿を消していた。
「試したわけではない。
ここからの話、周りのもの見聞かれてはまずかろう。
お主からは女神シルラの加護を感じる。」
たしかの僕がいつもお世話になってる女神様の本名はシルラ様。
だから加護を受けていてもおかしくはない。
というより僕の転生は何かしらのイレギュラーのため、
加護を受けているのは確実。
ダークエルフが信仰しているのは女神リルラ様の方だから
このことがバレたら折り合いが悪くなるのかもしれない。
王はそれを危惧したんだろう。
「ですけど、それじゃ何が何だか…」
「考えてもみよ。エルフが信仰しておる女神は誰だ?」
シルラ様…だよな?
(あなた何でそこを疑問形にするのよ!?私に決まってるじゃない。
リルラみたいなモノ好き信仰するのはモノ好きダークエルフだけよ。)
「あのねぇ…その言い方が戦争の火種になるかもしれないんですから。
もうちょっと喋り方考えてください…」
(なによ、あなたリルラの味方しようっての?
私に逆らうなんて良い度胸じゃない。)
そういうのじゃないんだけどなぁ…
「そろそろ良いか?」
「ごっめんなさい!?」
女神様改めシルラ様の捲し立てにより
目の前の王をすっかりおざなりにしてしまった。
でもその間に考えに整理はついている。
「リルラ様を信仰するあなた方が和平を申し出ても聞き入れてもらえないんですね。」
王が神妙な顔をして頷いた。
曰く、以前に和平を申し出たところ聞き入れられず
宗教による侵略という名目にとられ戦争の一歩手前まで進んだらしい。
とはいえ今の状態の中にも
宗教がらみの内容は若干入っているようで…
面倒くせぇぇぇぇぇぇ
◇◇◇
(面倒くさいって言って大変申し訳ございませんでした…)
さっきは面倒くさいなど口を滑らせてしまったせいで
女神様の機嫌を損ねるなりなんなりあって再び無駄な時間をとってしまった。
そのせいで再び王が顔をしかめられた。
「納得はできたか?」
「えぇ、まぁ…」
僕の返答に大方満足したのか、あれよあれよと話は進み
ついに僕が数名のダークエルフと共に派遣されることになったのだった。
◇◇◇
数日後、再び僕は王の前に立たされていた。
僕の後ろには護衛兼和平の使途としてダークエルフが3人。
「それでは転送を始める。
そなたにこれからの我らの運命がかかっていることを忘れるでないぞ。」
広間に集まった魔導士たちが一斉に詠唱を始め、
足元が徐々に光を放ち始める。
「では行ってきます。」
王に聞こえたかは分からない。
言い終わる前に視界が光に包まれたからだ。
まぁ大丈夫だろう、どうせ聞こえてるよ。
◇◇◇
いきなりだがここはどこなんだろ?
ダークエルフの転送魔法はその精度はバッチリだった。
一緒に来たダークエルフたちもその点は説明してくれていた。
彼らが言うに、ここはエルフ領がすぐそこにある森の中。
さすがは魔法に精通したダークエルフ、
少しでも分かりやすいようにすぐ近くまで飛ばしてくれたんだろう
ただ…ただなんだよ…
僕は忘れていた。
ダークエルフが非常に不器用だということに。
彼らは確かに魔法に関して卓越した技術を持っている。
それこそ他の種族とはレベルが違うほどに。
だからこそここまで精度の高い転送ができた。
しかしそれは何を意味するか?
「魔法の発動に集中しすぎていた」ということを
それは暗に示しているんだよ。
どういうことかって…?
「こっからどうすればいいんだろ…」
たしかに僕含め派遣されたいわゆる和平の使途は
エルフ領の付近にいる。
いや、もっと正確に言おう。
「エルフ領」すぐそこの森の「樹の上」にいる。
洗濯物もびっくりの吊るされ方で
和平の使途の意味を今一度考えたくなるほどに吊るされている。
「やっぱりあなたたち不器用なんですね。」
「えぇ、お恥ずかしながら…」
当の本人たちにもどうやら自覚はあったみたいで
詠唱が始まった時に何かを察したような顔をしていたこと
今になって思い出した。
とはいえここから降りたとてケガするわけでもない。
さっさと引っかかっている枝を折って降りようと
背中側に手を回した時だった。
顔の横でカツンと硬い音がする。
見ればあと少しの所で止まっている光の矢、
その色に見覚えがあった。
「リリィさん、私たちは確かに和平の使途です。
ですがそれは私たちダークエルフの間でのみの話、
ここから先、通用しないことがあることも想定しておいてください。」
厳しい表情の向かう先、
なんで今まで気が付かなかったんだろう。
僕が吊るされている樹の下。
そこから弓を構え、こちらを睨む人間がいた。
いや、人間じゃない。
長く伸びた耳、鮮やかな金髪。
(ツイてない…)
僕がもう少し無知であれば何も思うところはなかったんだろう。
知らなければ苦労しないんだろう…
「エルフ…」




