ダークエルフ
僕は今、ダークエルフと向かい合って座っている。
この光景だけ見れば最初と何も変わらない。
問題は場所だ。
先ほどのような薄暗い地下ではなく
今回はきちんと地上で話を聞いてくれた。
まぁ周りに魔導士は待機してて、
僕が怪しい動きをすればいつでも魔法を使えるようにしている。
「先ほどは…その…感謝する。」
その気高さがどこか邪魔をしているのか、
そっぽを向いた状態でぼそぼそとお礼を言われた。
最初と比べればお礼を言われただけでも好調な滑り出しと見ていいよね。
彼らはどうやら僕の使った魔法に興味があるらしく、
特に魔導士たちは寄ってたかって詳細を聞いてきた。
曰く、
彼らの魔法はダークエルフ領の中で作られ発展してきたため
自分たちとエルフの使う魔法以外を見るのは初めてらしい。
女神様に許可を貰って(あとで色々と貢ぐことを条件に)
ダークエルフたちの目の前で天術目録を広げた。
文字が読めず苦戦していたが、さすがはダークエルフ。
魔法で文字の解読を行い、すぐに読み始めてしまった。
(何それ、あとで教えてもらお。教えてくれるか分からんけど。)
◇◇◇
ダークエルフたちの態度も随分と軟化した。
というか一気に軟化した。
天術目録を見せたところが大きかったのかな?
マギアでも連れてきたらもっと早く打ち解けれたのかもしれない。
…いやあの子を連れてきたら連れてきたらで
どのみち一回は争いにはなってだろう。
「…リリィ殿、この魔法はどういう効果があるのだろうか?」
現実逃避も虚しく、とはいえこの展開を少しは望んでいたとしても
「…リリィ殿、この魔法はもしかすると
戦闘以外でも使えるのではないだろうか?」
僕としてもダークエルフたちが心を開いてくれたのは嬉しいよ。
「…リリィ殿ほどの力がなくても使えるんだろうか?」
嬉しいんだけどもさ…
「ちょっと待ってくださいね…」
距離感を測りあぐねてか、控えめに聞かれるも
ここまでもみくちゃにされるとは聞いてない。
さっきまでの対応が身に染みてしまった今、
彼らの態度の急変に着いて行けない。
次々と飛んでくるダークエルフたちの質問に
片っ端から、時には少し不機嫌な女神様の助言も借りながら答えていく。
気付けば窓の外は赤く染まっていた。
通された部屋は地下牢…ではなく
魔導士たちと同じ建物だった。
どうやらほんのわずかな時間でも彼らは魔法について聞いてみたいらしい。
「…リリィ殿、ゆっくりお休みください。」
ドアを閉められるも落ち着かない。
何処からか視線を感じるような…
「そこかッ!?」
羽を飛ばし床に突き立てる。
羽の突き刺さった魔法陣が音を立てて散る。
「気になることがあるなら普通に聞いてくれればいいのに…」
彼らは僕の魔法を見て感心半分
そして挑戦半分くらいの気持ちを抱いたらしい。
負けず嫌いというか何と言うか…
誇り高いってのも難儀な話だな。
僕とダークエルフたちの魔法による監視合戦は夜が明けるまで続いた。
◇◇◇
ところで僕は今、どこにいるかと申しますと…
「そなたが我らの領土にやって来た者か?」
圧倒的威圧感、空気が重い。
ジェリアかそれ以上の重圧を受けて僕は今、
ダークエルフの王の前にひざまづかされている。
「外の者から見て、我らダークエルフはどう見える?」
「どうと言われましても…」
排他的で、誇り高くて、
人間の情報からではあまり良くない印象が強いけど。
「正直に申してみよ。」
「排他的で誇り高くて、人間の目から見ればあまりいい印象はありません。
けど…」
王の目が僕をはっきりと捉える。
まるで僕が言わんとすることを逃すまいとする目だった。
「けど…誰よりも純粋に魔法が好きな人たちだと思います。」
魔法を語る彼らはまるで少年のようで
色褪せない無邪気さがあって、一緒にいて楽しいと思った。
昨日の夜だってほんの少し、ほんの少しは面倒だとは思いつつ
あの状況を楽しんでいる自分がいた。
ここに来なければ気づかなかった。
今までダークエルフは冷たくて分かり合えない存在だと思っていた。
でも違った。
誰よりも魔法が好きで
でも距離感が分からない辺りは不器用で。
「そなたが自身の力でここにいる者の信頼を勝ち取ったというのなら
…その者を一目でも見てみたいと思った。
そなたにならできるかもしれん。
我々ともう一つの種族の心を開くことが。」
もう一つの種族、
ダークエルフと並びその魔法は人間や他の亜人を凌駕する。
「そなたをエルフ領への和平の使途としたい。」
王の言葉に広間が騒がしくなる。
当たり前だ、いくら僕がほんの少しの信用を得たとしても
部外者は部外者。
そんな奴を派遣するなら心配なのは間違いないだろう。
聞けばさっきの光の剣の雨あられはエルフ領からの攻撃とのこと。
ダークエルフ領には定期的に行われているらしい。
僕が来た時もアレも攻撃の一環だと勘違いしたからだったんだろう。
それにしても…
「どうしてエルフとダークエルフはそんなに仲が悪いんですか?」
ここまで不器用で口下手なダークエルフのことだ。
両者の間に何か誤解があったのかもしれない。
知っておけばそれが和平交渉のカギになると見た。
王の目配せに広間に集まっていたダークエルフたちは奥へ下がる。
同時に王が指を鳴らしたことで周囲に結界が張られる。
「そなたも知っておるかもしれんがこれは消音結界。
実害はない、安心するといい。」




