天使の力も使い様
ダークエルフ領までは遠い。
竜人族領ほど遠いわけじゃないらしいけれど
到着するのは竜人族領よりも骨が折れるらしい。
っていうのも
ダークエルフは外部との接触を極端に嫌う種族。
それゆえ集落も魔法で隠されてるんだとか。
人間がそこに行けたのは最新の記録でも数百年前。
今もそこにあるかは分からないし、
なんならもっと見つけにくくなってるかもしれないし。
宛先には一応の場所は書いてるけど、
どこまで当てになるのやら…
とりあえず今日まで
ありとあらゆる文献を読んではみたけど
どれもこれもいい加減っていうか、なんていうか…
ただその中にも1つだけ共通することがあった。
北西に進んだところにある巨大な森、地を削る滝。
その昔、ダークエルフの国にたどり着けた人たちの記録には
その2つの言葉が出てきていた。
北西、山、滝ねぇ…
とりあえず北西に進みながら探してみるか。
王都から出て少し歩く。
人目がなくなったところで翼を出した。
◇◇◇
現在、王都から北西方向に向けて飛行中。滝なんて全く当たらない。
見た感じ一面、うっそうとした森が続くだけで
そろそろ見飽きてきた。
これじゃ目印の森もアテにはならなそうだ。
仕方ないな、このままじゃ埒が明かない。
こんな時には…
「テッテレー、天術目録ぅ。なんちって」
僕でも宛先の住所が分からないような
場所が王都にも存在する。
そんな時に便利な魔法があるってことを最近になって教えてもらった。
預けられた手紙をバッグから取り出す。
それを裏返すと書かれている宛先。
「届け、思いは正しき導きのままに。『道しるべ』」
宛先の部分を指でなぞると
書かれた文字が光を発した。
女神様がやってくれた時の見よう見まねで
なんとか再現してみたがうまくいったか…?
手紙を手から離す。
僕の手を離れた手紙はそのまま落ちていくことなく、
北西の方角へゆっくり飛び始める。
大成功。
ある日、宛先が分からなかったときに女神様から教えてもらった魔法。
たしか名前は『道しるべ』だったはず。
物に込められた記憶や感情を道しるべとして使う魔法…だったかな?
いかんいかん、
胸張ってる場合じゃない。
急いで翼をはばたかせ、手紙を追いかけた。
少し先を飛んでいく手紙。
それは数時間飛び続けて、とある位置で止まった。
この宛先が正しければ
ここがダークエルフ領みたいなんだけど
「森はあるにしても滝はなかったなぁ。」
数百年の時を経て自然に消えたか、
それとも意図的にダークエルフたちが魔法で隠しているのか。
ダークエルフの魔法は
人間のそれとは比べ物にもならないって書いてたけど本当だ。
それにしてもすごい魔法だなぁ、
周りの風景と全く見分けつかないや。
でもこっからどうしよっか、
どこから入ればいいかも分かんない。
その時だった。
頬を何かがかすめる。
(ん…矢?)
危ないな、誰だよこんなの飛ばしたの?
立て続けに飛んでくる。
避けてつかんでを繰り返す。
上空に撃ちあがった1本の矢。
その軌道上に現れた魔法陣を通過したその瞬間、
1本の矢が無数の矢に姿を変えた。
魔法…
ってことは正解なのかな?
「次元跳躍」
飛来する矢を全て魔法陣の中に取り込む。
放たれては取り込み、放たれては取り込みを繰り返すことどのくらい経ったのだろう。
ついに矢は飛んでこなくなった。
「やっと終わった…
そろそろ姿見せてくれないな?」
…反応なし
あれだけ撃ちまくってるんだから
今更居留守なんてしたって無駄ですよ。
たまにいるんだよねぇ、居留守使う人。
こっちは印をもらわなきゃいけないから、もう一回配達することになって
面倒なんだよなぁ…
マギアの機嫌も露骨に悪くなるし…
「そろそろ出てきてもらわないと
こっちだってどうにかするしかなくなりますよ。」
「いくらあなたが私たちと同じ亜人族とはいえ、
それは我らを誇り高きダークエルフと知っての言動かね?」
結界がまるで最初からなかったかのように透けて中が見えるようになった。
その中からこちらをじっと見つめる亜人。
つやのある褐色の肌、とがった耳
間違いないダークエルフだ。
翼をしまって地面に降り立つ。
結界っぽいものを感じる。
どうやら人間の目を欺くために光学的な魔法を使っているらしい。
さすがは魔法に精通するダークエルフ、
そこいらの魔法と格が違うことは誰の目にも明らかだ。
「お客人、今そこの結界を解く。離れなさい。」
結界の観察に夢中になって、そう言われたことにも気づかずに
物珍しさから結界に触れてしまった。
まるでガラスが割れるような音を立てて
結界が音を立ててきしむ。
結界の内側から呆然とこっちを見るダークエルフ。
…やっちゃった?