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特訓

「ゼルキアっ!!」


目が覚めたらジェリアの家でした。

さっきまでゼルキアの所にいたはずなのに…


寝ぼけ眼をこすろうとした時にあることに気が付いた。

手のひらの魔法陣、なんか大きくなってない…?


「おはようリリィ、今日から特訓よ。

さ、外出なさい。」


続いて起きたジェリアに引かれるまま、

僕は外へ引きづり出された。

何が何だか分かんない、頭が爆発しそうだ…



「決して手は抜かないこと、いいわね。

私たちは本気で勝ちに行かなきゃいけないんだからね。」


「う、うん。」


孤児院時代からこうやって何度か模擬戦をすることはあった。

でも今回は違う。


一つ目はジェリアが大きくなってること。

あの頃とは比べ物にならないバケモノ感。

当時から十分バケモノだったのに今はそれに増して威圧感が増した。


そして二つ目は、

僕がゼルキアから恐らく何か仕込まれていること。


昨晩、呼び出されたのは勘違いじゃない。

その証拠が大きくなった手のひらの魔法陣なんだろう。

ただ大きくなったからといって何ができるとは聞いてないうえに

そもそも僕に理があるのかも分からない。


つまりは、今のところ全てが訳わかんないことになってるんだ。

そんな状況で目の前には手をボキボキ鳴らす竜人族。


昨日のアレで分かった。


ジェリアは嘘はついていない。

同い年の竜人族を片っ端からボコボコにした話も作り話には思えない。


「じゃあ始めようかしら。

言っとくけど昔の私のままだと思ったら痛い目見るからねッ!!」


ジェリアの背後に緑の魔法陣が現れた。

昔教えた『治癒(ヒール)』で間違いない。


瞬間、姿が消える。


「!?」

治癒は回復の魔法だったはず。

いくら成長したとはいえ…


「考え事なんていい度胸じゃないっ!!」


わずかに聞こえたジェリアの声。

その声が聞こえたと認識した瞬間には既に地面に叩きつけられていた。


息が止まる。

上がってきたモノを気合いと根性でどうにか抑え込む。


(容赦…なさすぎ…)


どうにかして立ち上がる。

相変わらずものすごい動き、目で追えない。


(まずは動きを封じないとな…)


地面に叩きつけられたことでかえって頭は冷静になった。

どこにいるかも分からないジェリアを狙って手を突き出す。


召喚(サモン)!!」


瞬間、視界の全てをユリの花が覆いつくす。

地面にそして互いに根を張った花は空にまで咲き誇った。


「なっ!?」


それと同時にジェリアが姿を現す。

ユリの花に根を張られ動けなくなったようだ。


「どしたのジェリア?さっきみたいに元気に走り回ってていいんだよ?」


拘束されたジェリアの金の目が僕を射抜かんとしている。


「あんたも言うようになったじゃない。

まさかこの私にそんなこと言うなんてねッ!?」


高速で尻尾が振るわれ、辺り一面の花が地面ごと吹き飛ばされる。

ジェリアの拘束が解けた。


足元の地面が揺れた。

その拍子にバランスを崩してしまう。


「あんたは昔からそう。小賢しい手ばっか使って…

でもね教えてあげるわ。

それすらも叩き潰すのは力ってこと。」


ユリが舞い散る中、

ジェリアが右手を点に向かって掲げる。

その手に現れた魔法陣は鮮やかな赤、燃える炎のようにその色が変化していく。

同時に彼女の体に降り注ぐ花びらが発火し、

その全てが消し炭と化していった。


紅玉炎(スカーレット・レイド)


視界が赤に包まれる。

その鮮やかさに見とれた一瞬の間に僕の体は飲みこまれた。


◇◇◇


「熱ッ!!」


「熱くないわよ、しっかりしなさい。」


目を覚ますと双丘が僕に話しかけてきた。

その奥からジェリアの顔がのぞく。


あのぉ、ジェリアさん…

この体勢はまさか、そのまさか…


マギアなら「不快です、直ちに滅します。」との答えが返ってくるところだが

生憎ジェリアは心が読めない、

だからこんなこと考えても、いつもみたいにはならないはずだ。


「あんた、何か余計なこと考えてるんじゃないでしょうね。」


前言撤回。

…どうやら女性陣には心を読む能力が

大なり小なり備わっているようだ。


ジェリアに膝枕をされたままの僕は

詳しく事情を聴かされることとなった。


曰く、

ジェリアが僕にイラついた結果、本来使ってはいけない魔法を使ったんだとか。

そのせいで僕が倒れてやっと彼女は正気に戻ったらしい。


そうだった…

ジェリアは昔から正気を失いかけることがよくあった。

竜を信仰していなくとも竜人族(ドラゴノイド)

少なくともその血に共通するところがあるんだろう。


生まれながらの狂戦士(バーサーカー)

背中が冷えたような気がする。



「それって僕のやられ損じゃないの…」


僕はジェリアにまともに一撃を入れていない。

一方でジェリアはどうだろうか?


まず地面叩きつけで一発、

尻尾もかすりそうになったから一発にカウント、

そして最後の…何だアレ?、

よく分からないけどあれこそ一発にカウント。


合計三発も叩きこんでくれている。


「どうするのさ?ケガしてて試合までに治らなかったら?」


「そん時は私が治してあげるわよ。」


僕の顔を覗き込んでジェリアが右手を差し出す。

その手には魔法陣が浮かび上がっていた。

その表情は凛々しく、ルーナ様を想起させる。


「あんたでも押し切られた私の『治癒(ヒール)』でね。」


ニヤリと笑うジェリア。

さっきまで彼女をルーナ様みたいだなんて言ってた奴、どこだ!?

その考え、叩き直してやる。


◇◇◇


「どうしてジェリアは僕を特訓に誘ったの?

強い方がいいならルロイが適任だと思うけど。」


ジェリアがそっぽを向く。

この子は変わってない、なにか隠し事がある時にそっぽを向く癖も。


「あんたがどれくらいになってるか

確認したかったからよ。」


「で、ホントのところは?」


こうしてそっぽを向いた後の

彼女の第一声はたいていウソである。

昔から一切変わっていない。


「あんたに頼みがあるからよ…」


顔を赤らめながら恥ずかしげに話すジェリア。

今度こそ本音で間違いなさそうだ。



「それってジェリアが竜人族の長になるって

言ったことと関係ある?」


いつかジェリアが覇王竜(ゼルキア)に言い放ったあの言葉。


僕の耳からあの言葉が離れなかった。

あの言葉には決意があった、

でもそれは恐らくジェリアだけじゃ達成できない。


領のトップが竜を信仰していないのなら、

今までの体制は大きく崩れていく。


でもジェリアならやりかねない。

あの言葉にはそこまでの物を感じた。


「あんた、やっぱり何でも分かっちゃうのね。

さすが私たちの先生だわ。」


そう言ってジェリアはぽつぽつと語り始めた。


ジェリアが孤児院を出て帰って来た時には

同世代の竜人族は既にゼルキアを信仰していた。


力こそが全て。


長らく王都で生活してきた彼女にとって

その考えはあまりに野蛮なものに見えたらしい。


そして彼女は竜人族の考えに反発し旅に出た。

幸い、両親はなんとも言わなかったそうだが、

本音を言えばどこか思うところがあったんだろう。


「私は世界を旅することにしたの。

その中で思った、世界は広いのよ。

私たち竜人族の価値観がいかに凝り固まったものか、思い知らされたわ。

だから未来の竜人族には

窮屈な価値観の中で生きてほしくないの。」


ジェリアが僕の手を取った。

固く握られたその手から彼女の決意の強さが伝わってくる。


「だからお願いリリィ。

私に力を貸して、竜人族(ドラゴノイド)を変える力を。」


断る理由なんてない。

友達の頼みっていうのもあるけど、

それ以上に彼女自身が世界を見て、考えて、それでやりたいと思ったのなら、

それがまだ見ぬ誰かのためになるのならば。


(無償の愛、これこそ天使のあるべき姿だよね。)


「分かった。僕でよかったら力を貸すよ。

だからさ、その、そろそろ膝枕起こしてくれない…?」


ジェリアの顔がほんの少し、

そうほんの少し朱に染まった…ような…気がしないでもない。


「ダメよ、あんた私の本気受けて倒れたんだから!!」


あたかも今考えたようにジェリアが捲し立てる。

こうやって何か捲し立てるようにしゃべるのもこの子の癖だったなぁ

なんて思いつつ、心地よい陽気の中、僕は目を閉じた。


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