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第2話 2-2

 目が覚めて、


「へんな夢を見たなー。おきて学校いかなくちゃっ!」


 そう思えればよかったんだけど、目が覚めてもあたしはスカーレット……レットの身体からだの中だった。


(おはようございます、アズキ)


 大きなベッドにあおむけになるあたしの上あたりで、空中にふわふわ浮かんでいるレットはニコニコしていて、なんだかとても楽しそうに見える。


「おはよう、レット」


 夜にくらべたら、あたしの……というかレットの身体の具合ぐあいはよくなった。

 少なくとも心臓に痛みはない。

 それでも、体は重く動かしにくいけれど。


「ぅっ……ぅんっ」


 がんばって上半身を起こそうなんて、こんなの初めて。

 あたしが頭を持ち上げようともがいていると、 ベッドの右側の壁にあった扉が開いて、


「おはようございます、スカーレットお嬢さま」


 そういって部屋に入ってきたのは、アニメで見たことある「昔のメイドさん」みたいな服装のお姉さん。


 大人なのか子どもなのかもわからない。

 高校生くらいなのかな? 大人には見えないけど、あたしほど子どもじゃない。


 そのお姉さんはカーテンを開けて朝の光で室内をみわたすと、あたしの上半身を起こすのを手伝ってくれた。

 そして、起こしたあたしの背中にクッションをそえて、小さなジョウロみたいな、病院で入院している人が水を飲む水さしのようなものを手渡してくれる。


「お水です。ゆっくり、お飲みください」


 そういわれれば、のどがかわいている気がする。


 あたしは水さしのさきっぽに口をつけ、いわれたようにゆっくり水を口に入れた。

 ……ぬるいな。

 水というより、さめたお湯って感じだ。


 しかし、んー……。


 レットの身体は、水を飲むのもつらい。

 喉が痛いっていうわけじゃなく、水が喉をおちていってくれない。そんな感じなの。


 あたしが時間をかけて水を飲むと、


「たくさんおし上がりいただけて、安心いたしました」


 メイド服のお姉さんが微笑んでくれた。

 残してしまったら怒られるかも。

 なんとなくそう思ってがんばって飲んだけど、そこまでムリしなくてもよかったみたい。


「ありがとう……ございました」


 あたしはお礼をいって、メイド服のお姉さんに水さしを返す。

 水さしを受け取ったお姉さんはなんだか不思議そうな顔をして、


「お嬢さまが使用人にお礼などと、メイドちょうに知られると私が叱られてしまいます。ありがたくございますが、おやめくださいますよう」


 そういい残し、入ってきた扉から部屋を出て行いった。

 

 あたしは部屋の中をフワフワ浮きながら、


(はわぁっ、はわわぁっ!)


 と奇妙な声を発し続けているレットに、


 お礼、いっちゃダメだった?


 心の中で聞いてみた。


 しかし彼女は楽しそうな笑顔で、


(これほど軽やかに動けるのは何年ぶりでしょうかっ!)


 と、あたしの質問は聞いてもいないようだ。


「そう、よかったね」


 あたしはいってから後悔した。


 ……って、いいわけないじゃないっ!


 自分の身体からだに知らない子が入っているんだよ?

 そして自分は、しんじゃったかもしれないんだよ?

 いや、生きてるかもしれないけど、少なくとも幽霊みたいに空中にふわふわ浮いているんだよ?


 そんなの、いいわけない。


「……ご、ごめん」


 レットはなにも気にしてない様子で、


(どうですかアズキ、思う通り動けるようになってきましたよっ!)


 宙返りするように回転した。


 あ、あれ……?

 あたし、気にしすぎ?


 だけどレットとあたしの立場が反対だったら、さっきのあたしの「そう、よかったね」は、やっぱりイヤな気持ちになったと思う。

 なんだか、イジワルな言葉に聞こえちゃうから。


 あたしは、そう思っちゃうから……。


 部屋を見回す。

 物語に出てくる「お姫さまのお部屋」そのもの。

 広くて、豪華で、値段が高そうなものであふれている。


 うん。これ、明らかに外国だ。

 レットも金髪で緑の瞳だし、外国人にしか見えない。


 だけど、日本語通じてるよね?

 あたし英語話せないし、レットが外国語を話しているなら、会話にならないはずなんだけど……。


 まっ、夢だからそんなものか。


「ねぇ……レットは、お姫さまなの?」


 レットの見た目は、完全にお姫さまだ。

 テレビでも見たことないほどの美少女で、フリルがいっぱいの真っ赤なドレス着てるし。

 こんな派手なドレス着るのって、お姫さまくらいでしょ?

 レットはかわいいから似合ってるけど、あたしが着たら「なんの冗談?」みたいになっちゃうよ。


 今度の質問はちゃんと聞こえたのか、レットはあたしの隣へと流れてくると、


(ちがいます。お姫さまではありません。ですが、国王陛下は、わたくしのお父さまのお兄さまにあたりますから、リニエ王女はわたくしの従妹いとこにあたります)


 リニエ王女が誰かは知らないけど、


「レットのお父さんって、王さまの弟なの!?」


 それってすごいんじゃないの?


(は、はい。そう……なりますっ!)


 あたしに答えながら、天井ぎりぎりの高さで宙返りを始めるレット。


 この空中宙返りを繰り返している美少女は、王さまのめいっ子?

 それって「お姫さま」にふくまれるんじゃない?

 そう思ったけど、よくわからないから黙っておいた。


(アズキっ!)


 レットが大きな声と嬉しそうなお顔をあたしにむける。


「な、なに?」


(ぜんぜん目がまわりませんっ! いつまでも回っていられますっ)


 は、はぁ……なにいってるんだ? この子。

 とりあえずあたしは、少しの間、くるくると回り続けるレットをながめる時間を送った。


     ◇


 空中をたてや横に回転しているドレス姿の美少女をながめるのも、60秒もすれば飽きた。

 なんとなく「動けそう」と感じたあたしは、


「外に出てもいいかな?」


 レットに確認する。


 だってこのままベッドで寝ているのはたいくつだし、せっかく「外国のお屋敷」みたいなとこにいるんだから、見学してみたい。

 ま、これは夢かもしれないけど、夢だからといって寝ているだけがたいくつなのは変わらない。


(できるのでしたら、よろしいですわ)


 できるのでしたらって、なんか変ないいかた。

 だけど、部屋から出てもいいみたい。

 レットは病気っぽいからおとなしく寝ているように、閉じこめられているわけじゃないんだな。


 あたしは小さく深呼吸してから、ベッドをおりる。

 どこか痛むかもとこわごわだったけど、なにも痛いところはなかった。


 あたしの……というかレットが着ていたのは、真っ白な……ネグリジェっていうの?

 少なくとも、あたしが寝るときに着る子どもっぽい上下のセットのパジャマとは違う、フリフリフリルなおしゃれでかわいいものだった。


 だけどこれ、あきらかに「寝まき」だよね?

 部屋の外に出るんだから、着替えたほうがいいんじゃないかな?


(アズキ、外に出るならこの扉です)


 この部屋……寝室なのかな? には、3方向の壁にそれぞれひとつずつ、全部で3つの扉がある。

 その3つの扉のうち、レットが移動してしめしたのは、ベッドから1番遠い扉だった。


「う、うん」


 身体が重いな。

 レットの身体はあたしよりは高いっぽい(視線の高さからなんとなく)けど、ほっそりして手足は転んだだけで骨折しちゃいそうなほど細い。

 だから、レットの体重はあたしより軽いくらいなのに、なんでこんなに身体が重いんだろう?


 ゆっくりと、一歩いっぽを確認するように歩く。

 やっぱり自分の身体とは感覚が違って、動かしにくい。


 と、


「レッ、レット!?」


 扉の前にいたはずのレットが、急にいなくなってしまった。


「ちょっとレット、どこいったの!?」


 だけど、あたしの呼びかけにこたえはすぐにかえってきて、


(はぁ……びっくりしました。わたくし、壁をとおりぬけられました。まるで精霊せいれいのようですわ)


 扉の横の壁からレットの上半身がはえてきた。


「びっくりしたのはこっちだよ。急にいなくならないでよ」


 あたしこの「夢の世界」のこと、なんにもわからないんだから。


(そうはいいましてもですね、壁をとおりぬけるなどわたくし初めてのことですから、驚いてもよろしいのではなくて?)


 まぁ、そうかもしれないけどさ。

 あたしだって壁をとおりぬけたら驚くだろうし。


 あたしは首をかしげるだけで答えて、壁から上半身をはやすレットに近づくと、その隣の扉を開けた。


 外に出るならこの扉です。


 レットがそういってたから、なんとなく廊下に出ると思っていたけど、扉の先は寝室よりも広そうな部屋だった。


「外じゃないじゃん」


(ここはわたくしの私室です。この部屋を通らないと、外には出られません)


 この部屋だけで、教室の半分くらいの広さがあるんじゃない?

 ひとりで使うのかな? 広すぎて落ち着かなさそう。

 あと、紫の花がいけてある花瓶が金ピカで、お仏壇の飾りみたい。


「次はどの扉?」


 この部屋は4方向それぞの壁に、1つずつ扉がある。いま通った扉をのぞいて扉は3つ。


(こちらですわ)


 むかって左側へとすーっと空中を泳ぐように移動するレットのあとを追い、あたしは足を進める。


(この扉のむこうが廊下ろうかです)


「ありがと」


 扉を開ける。レットのいうとおり、扉の先は廊下だった。


 廊下には赤色の絨毯が敷かれ、素足のあたしに、やわらかくて少しくすぐったいその感触があたえられる。


 まっすぐに伸びる廊下。

 学校の廊下のように壁側にいくつかの扉が並び、その向こう側には部屋があることがわかった。

 壁側の反対側は窓があって、外の景色が見える。


 窓の向こうの空は、地面にから見るよりもちょっとだけ近い。

 どうやらここは、2階? 3階かな? 私は窓際に進み、外を見る。


「わぁーっ! なにこれ、きれーいっ」


 あたしがいる場所……レットのお家はお屋敷っていうよりも、洋風のやかたって感じのところみたい。

 目の下に広がる森。森の隙間にキラキラしているのは湖かな? ここからだとよく見えない。


 森の右側には、なんだろう? 村? 何軒かの家が集まっている。

 やっぱりここは日本じゃない。外国の風景だ。


 ……なんだけど、ビルとか街とか、そういうのは見当たらないな。

 外国だとしても、とっても田舎な場所なのかも。


 そう思ったけど、これは「夢の世界」なんだから、なんだってありだよね。

 映画でみたことあるような、ファンタジーな世界なのかも、ここ。

 

 歩き出してすぐに、


(できるのでしたら、よろしいですわ)


 レットがそういった意味がわかった。


 確かにこれ……歩くのがきつい。

 足が重いし、心臓がチクチクする。


 レットはいいたかったのは、


『動くと苦しくなりますが、ちゃんと動けるのならよろしいですわ』


 って意味だったのね……。


 なんとか、動けるのは動ける。

 息苦しいし、心臓がチクチクするけど、足は動いてくれる。


 あー……そういえばあたし、寝まき姿なんだよね? 裸足だし。

 着替えてから部屋を出たほうがよかったかな?


 ここがレットのお家だとしても、寝まき姿でウロウロするのは気がひけるな。

 とっても立派なお家だから。


 ねぇ、レット。

 この格好で出歩いて大丈夫?

 着替えたほうがよくない?


 心の中でレットに聞いてみたけど、返事がない。

 ふわふわ空を泳いでいる彼女は、なんの反応も見せない。


 もしかしてあたしの心の声、聞こえてない?


「レ、レット」 


(はい?)


 部屋に戻って着替えたい。


 そう心の中でいってから、


「聞こえた?」


 声に出して確認すると、


(レ、レット……聞こえた? ですか? 聞こえましたけど)


 うん、わかった。

 やっぱり心の中で思うだけじゃ、レットには聞こえないんだ。


「着替えたほうがよくない? これ、寝るときの服だよね」


(ん~? わたくし、いつもその格好ですわよ? それに着替えるのは大変です。侍女の皆さんに手伝ってもらわないといけませんし、その前に体を清めないといけませんわ)


 えっ……面倒くさそう。

 でも、体を清めるって、お風呂に入るとかそういう意味だよね?

 汗はかいたから、着替えたいのは着替えたいかも。


 あたしがどうするか考えていると、レットがすう~って感じで、廊下にそって飛んで行ってしまった。


「ちょっ、どこ行くのよっ!」


 追いかけようとしたけど、あたしは飛んでいるレットほど早く動けない。

 どんどんと距離が開いていき、レットが廊下の突き当たりの角を曲がろうとする。


 見失っちゃう!


 そう思ったとき、レットが引き返してきた。

 あたしの隣に戻ってきた彼女は、


(すすめませんでした)


 残念そうなお顔。


「どういう意味? なんかこわいのがいたとか?」


(ちがいます)


 レットの説明によると、彼女はあたしから……というか自分の身体から? あまり離れられないかもしれないみたい。

 なんでも、


(アズキから離れると、頭のうしろがひっぱられるみたいで、先にすすみにくくなるのです。ムリに進もうとしてみましたが、あれ以上は進めませんでした)


 だって。


 まぁあたしも、レットに勝手にどこかに行かれちゃうと困るから、見える範囲にいてくれるのはありがたいけど。


「勝手にどっか行かないで。あたし困るよー」


(はいはい)


「はいは一回」


(はーい)


 ふざけたようにいうレットと顔を見合わせて、あたしたちは笑った。


     ◇


 レットの説明を聞きながら、あたしは窓の外を眺めてゆっくりと歩いた。


 それでわかった大切なこと。

 ここは、地球ではない。


 あたしが今いる国はガレリア聖王国といって、トレアース大陸の西側にあるらしい。

 なに、その国と大陸。社会の教科書にはのってないんだけど?


 レットもあたしが地球の日本という国から来たといっても、


(そのような大陸も国も、聞いたことがありません)


 ということで、やはりここはファンタジーな夢の世界だ。

 そしてスマホやテレビという単語も、レットは「知らない言葉」だという。

 電気は、


カミナリから取れることがあると本で読んだことがあります)


 ということだったので、どうやら「電化製品」はない世界みたい。


 でもまぁ……それはそれで、少し安心だ。

 これが夢な確率が上がったような気がするから。


 だって、「イギリス(いったことないけど)にある実在の場所」っていわれたら、


「あたし、身体を置いてそんな外国に飛んじゃったの!?」


 って心配にならない?

 あたしはなる。


「はぁ~、ちょっと疲れた」


 そこまで歩いたわけじゃない。

 最初に出てきたレットの部屋の扉は、振りむけばまだ見えるくらいの距離にある。


 だけど、


「ごめんね。レットの身体なのに、ムリさせちゃった」


 レットにそうあやまらないといけないと思っちゃうほどに疲れた。


 と、すぐ近くの曲がり角から人影が。


(お兄さまっ!)


 え!? この人レットのお兄ちゃんなの?

 すっごいカッコイイ。


 年齢は……中学生くらい?

 あたしより2・3歳は上に見える。


 レットがすっごい美少女なんだから、お兄ちゃんもイケメンなのは不思議じゃないけど、それにしてもなんだこれ? 笑っちゃうくらいキレイな男の人なんだけど。


 そんなかっこいいお兄ちゃんは、あたしを……妹を冷たい目で見下ろして、


「スカーレット、部屋から出る許可きょかはえているのか」


 視線と同じような冷たい声でいった。


 許可? レット、別になにもいってなかったよね?


 横目でレットを見ると、彼女は大きく手を振りながら、


(ごまかしてくださいっ!)


 あせっている様子だ。


 うん。やっぱり勝手に出歩いちゃいけなかったんじゃん。


「ちょっと、散歩したいなって」


 イケメンお兄ちゃん、あたしの説明を聞いて顔をゆがませた。

 もしかして、言葉づかいがダメだったかな?

 しかたない。レットの真似をしてみよう。


「したいと、思いましたのですわ」


 うん、これでいいかな。

 正解がどうかわからないけど、


「お前はなにもせず、寝ていればいい」


 ため息をひとつこぼした美少年お兄ちゃんが、あたしの手首を握ってひっぱる。

 急にひっぱられたあたしは、


「きゃっ!」


 バランスを崩して転びそうになった。


「あぶないじゃないっ!」


 そんなあたしの主張は声にならず、胸がしめつけられるような感覚と一緒に、あたしの意識がレットへと引っ張られた。

 それは、不思議な感覚。

 一瞬だけど、レットと混ざりあったような、ひとつになったような感じ。


 だけどその「レットとひとつになった感覚」はすぐに消えて、あたしは「あたしだけ」になる。

 あれ? 勘違いだったかも。

 そのくらい一瞬の、不思議な感覚だった。


 だけどあたしの視線と意識はレットへと向けられていて、お兄ちゃんに腕を掴まれるあたしと視線があったレットの顔は怯えたように、苦しそうに歪んでいた。


 それはまるで、お母さんにぶたれたとき、あたしがしてた顔と同じに思えた。


 あたしの中で弾ける、怒りの感情。

 誰に対してはわからない怒りだったけど、あたしは、


「ね、寝てるだけなんて、そんなことできないっ! やりたいことだって、行きたいところだって、あるんだからっ」


 思わずレットのお兄ちゃんをどなりつけていた。

 そして、少し大きな声を出しただけなのに、あたしは頭がクラッとして、立っているのがやっとに……。


 あっ、ダメだ……。


 意識が……たおれ……ちゃっ……


(アズキっ!)


 レットの悲鳴は耳にとどいていたけれど、それはあたしの意識をつなぎとめてはくれなかった。


     ◇


 目が覚めたとき、あたしはレットのベッドに寝かされていた。

 部屋の中は暗くて、もう夜になっているのがわかる。


 横を見ると、ベッドの脇に座っていたレットと目があった。


「……レットのお兄ちゃん、イジワルだね」


(お兄さまは、やさしいですわ。ここに運んでくださったのも、お兄さまです)


「ほんとー?」


 うたがいをふくんだあたしの声に、


(はい。本当です)


 レットは真面目なお顔。


(……お兄さまは、あのときから少しこわくなりました)


「あのとき?」


(はい。もう……1年以上前です)


 レットの話よると、その日身体の調子が良かった彼女は、ひさしぶりにお兄ちゃんと遊ぶことができて、それがあまりに嬉しくてはしゃぎすぎて、倒れちゃったらしい。

 そして3日間ほど、高熱を出して寝こんだ。


「うーん……それは、レットが悪い?」


(悪くはありませんでしょ? お兄さまに遊んでもらえるなんて、本当に久しぶりだったのです。うれしかったのですっ!)


 まぁ、それはしかたない……のか?

 あたし、ひとりっ子だからわかんないけど、兄弟と遊ぶってそんなに楽しいのかな?


「でもさ、寝てるだけなんてできないよね」


 ここが夢なのかなんなのかわからないけど、それでも「ベッドで寝てるだけ」なんてできない。


(そうですね。たいくつですわ)


 たいくつかー。

 それはわかるけれど、レットの身体はすぐに疲れて息苦しくなるし、ムリできないは間違いない。


 あたしは考える。

 お兄さんのイジワルは、レットを心配してなのかもしれない。


 そりゃ、妹が身体弱くてすぐに倒れちゃうようなら、


「お前はなにもせず、寝ていればいい」


 って、きつくいうお兄ちゃんもいるかもしれない。


 ……しれないけど、なんかむかつく。


 あたしは勝手に出ちゃったため息のあと、


「お兄ちゃんには、今度あったらごめんなさいしとくよ。ムッとはしたけど、レットのお兄ちゃんだもんね……」


 それにレット兄は、めっちゃイケメンだ。

 あたしだって女子ですし? かっこいい男の子の前では、「いい子」に見られたいと思っちゃう。


(はい。それはありがたいのですが、わたくしもムッとしましたし、はっきり怒ってもらえてすっとしました)


「じゃ、あやまんなくてもいい?」


(そうですね。こんどあったら、プイッてしてあげましょう)


 ふざけたように頬を膨らまるレットに、あたしは笑った。


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