第4話 4-2
(アズキ、ごまかしてっ!)
あせるレット。
だけどあたしは首を横にふると、
「あたしの名前は、小豆さくや。レットの友だちです。レットの病気をなおすために、この身体に入っています」
レットのお兄ちゃんを見てそうつげた。
お兄ちゃん、気がついてるよ?
レットの中身が違ってるって。
だってお兄ちゃんの顔も目も、めっちゃこわいもん。
あんな顔で妹を見るお兄ちゃんはいないよ。
友だち。
そういったのが良かったのかな?
お兄ちゃんの顔から険しさが少なくなる。
「そうか……スカーレットは、いる……のか?」
いるのか?
あぁ、そっか。
お兄ちゃん、レットがしんだかもって思ってるんだ。
実際のところよくわかんないけど、レット、きっとしんでない。
身体の外に出てるだけだ。
あたしはそう思うし、そう信じる。
「そこに浮いています。元気ですよ」
あたしはレットが浮いている斜め上を指差す。
「ねぇ、レット。お兄ちゃんに協力してもらったほうがいいんじゃない?」
(えっー……あとで叱られませんか? お兄さま、怒るとこわいのです)
「しかたないっしょ?」
すねたように顔をしかめるレット。
子どもみたい。本当に叱られるのが嫌らしい。
「妹はなんといってるのだ」
お兄ちゃん、しゃべりかた偉そうだな。
まぁ、イケメンだから似合ってるかもしれないけど。
「これまでのことを全部話して、お兄ちゃんに叱られるのが嫌みたいです」
あたしがそう伝えると、
「はぁ……確かに、スカーレットのいいそうなことだ」
ため息まじりだけど、やわやかな表情をする。
どうも、納得してくれたみたいだ。
なのであたしは、お兄ちゃんに事情を話すことにした。
あたしは「地球の日本」からきた10歳の女の子で、気がついたらレットの身体の中にいた。
そしてレットの代わりに、彼女が苦手なおクスリを飲んでいたのだと。
そのおクスリの効果か、レットの身体も調子が良くなってきたし、そろそろ自分は自分の身体に戻りたい。
だけど戻りかたがわからないから、今はその方法を探そうとしているところだと。
そんな感じで、ほぼ全てを話した。
「このところ妹の様子が不自然で、あんなに嫌がっていたクスリを飲み始めたのも変だと思っていたのだが、そういう理由だったのか……」
お兄ちゃんはあたしに頭を下げ、
「妹のために力をおかしくださり、感謝いたします。アズキ……サクヤどの」
いやいや、そんな丁寧に感謝されると、あたしも照れちゃうよ。
「レットはですね、自分の身体から離れられないみたいで、あたしから見えるところにいます」
そこです。あたしがレットを指差すと、彼女はすっと移動した。
なので指先で追ってやった。
「動いてます。お兄ちゃんに見つかるのが嫌みたいです。ちっちゃな子どもですよ、赤ちゃんかな?」
(赤ちゃんじゃないですっ!)
「赤ちゃんではないらしいです。そこで止まりました」
お兄ちゃんはあたしの指の先に視線を向け、
「スカーレット、あまり心配をさせるな」
疲れたような声でいう。
レットは……なにその顔。
彼女は嫌なものを見るような、引きつった顔をお兄ちゃんに向ける。
(アズキ。わたくしが身体に戻ったあと、お兄さまが叱らないか確認してください)
「そんなに叱られるのが嫌なの? 心配させたからじゃないの?」
無言で歯ぎしりをするレット。
なのであたしはお兄ちゃんに、
「叱らないでね、お兄さま♡ と、満面の笑顔ですよ? 叱らないであげてください」
と伝えた。
お兄ちゃんは、
「わかりました」
と頷いたけど、
「アズキサクヤどの、あまり妹を甘やかさぬようお願いいたします」
あたしのウソは見抜かれているみたいだった。
まぁそれが、「お兄ちゃん」というものなんだろう。
あたしには「お兄ちゃん」いないから、ちょっとうらやましいな。
あたしは、少し安心したような顔をするお兄ちゃん……ニールヘルさんにちょっと見とれちゃったけど、
「レットは友だちだから、ギリギリまでは甘やかしますよ」
と返した。