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「家が死ぬ」2/4
「家が死ぬ」2/4
祖母が突然泣き出したことがあった。実家が死んだと言う。
祖母の実家は結構大きな呉服商で、当時も祖母の甥にあたる当主が市の商工会長を務めていた。その実家が死んだと泣く。
物忘れが増えてきたとはいえ、突然こういうことを言い出したのには驚いたが、八十を超えればこういうこともあるだろうなと。
ただ、経営状態が良くないような話は全く無かったその会社は、その年のうちに県外の大きなところに買収され、本店はなぜか整理対象になった。当主は商工会長まで務めたはずだが県都へ新会社を作って転出し、その後評判を聞かない。以前は祖母のところに法事の案内を寄越していたが、それも途絶えた。
本店跡地はがらんどうの再開発ビル、祖母が育った屋敷跡は引き直された道路とドラッグストアになっていて、祖母を病院へ乗せて行く時にはそのあたりは迂回している。