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善悪の天秤
「……」
(馬鹿な、あの人の妹の話で、それは二葉じゃない。
そこまでしてやる、理由はない……はずだ)
そう思いながらも、一はつい振り返ってしまった。
男は険しい顔をしながら、装備の整備をしていた。
見たところ、弓も防具もボロボロだ。
よく見ると、露出している肌は傷だらけで、
弓使いとっての生命線の一つ、照準を合わす為の左手からも血が流れ、震えていた。
あれでは正確に狙うのは難しいだろう。
死ににいくようなものだ、と一は思った。
一は舌打ちをした。
(詐欺とかじゃなく、言ってることが本当だった時、
この人に死なれたら、後悔してしまいそうだ……)
そして、内心毒づく。
(くそ、お人好しになるなら、とことんまでお人好しのほうがまだいい。
非情になるなら、完全に切り捨てればいい……
いつだって、俺は中途半端だな……)
そう思ってしまった時点で、腹は決まっていた。
「……何かアテはあるんですか?」
戻って、そう声をかけると男は驚いた顔をした。
「え?」
「合流する方法はあるんですか?
闇雲に探しても死ぬだけですよ」