プロローグ:運命の分岐は常にある
「……ち」
思わず舌打ちが出たのは財布の中を確認したからだ。
疲れていたから、食事を済ましてから、すぐに眠ってしまいたい。
しかし、その前に家賃の支払いが明日に控えていることを思い出した。
支払うこと自体は可能だ、集めた戦利品を売れば。
毎日がかつかつとは言え、毎日売りにいく必要はない。
むしろ、手元にあれば、誘惑に負けて使ってしまう可能性を考えれば、
ぎりぎりまで換金しないでおくのも手だ。
だから、その換金の日が来たというだけだ。
もちろん、明日行ってもいいのだが、一は口座から引き落としされるタイミングを把握していない。
換金は夜は遅くまでやっているのだが、朝は少し遅い。
明日の朝(手数料を考えるとそのタイミングがベスト)、
すぐに入金しておきたい一にとっては今日中に換しておきたかった。
仮に入金が遅れたとしたら、色々と煩わしいことになるのは目に見えていた。
だからその日、一は辺りは暗くなっているのに、換金を行ってくれるギルドに向かうことにした。
……もし、それが明日や昨日だったなら、一の運命はまた違ったものになっていたのかも知れない。