プロローグ:不動一③
だから一は、その才能故にダンジョンを諦めざるを得なかった。
9億6800万Pもの経験値をどうやって稼ぐというのだ?
そもそもあり得ない数字なのだ。
前述の10歳で覚醒したものでさえ、レベル2までに必要な経験値は1500P程だったという。
9億6800万というのは、
早熟~通常程度の『世界と繋がった者』なら、レベル100にまで至れる経験値だ。
現状の身体能力では、初心者向けダンジョンのモンスターすら、危ういというのに……
せめて、サポートしてくれる協力者でもいたら、話は好転したのだが、
一般家庭の普通の少年だった一にそんなツテはなかった。
それに、一の情報を公開すれば、研究目的で協力してもらえる可能性もあったが、
不用意に出来ない理由があった。
またしても、前述の10歳で覚醒したものの話だ。
『世界と繋がった者』の能力の解明は近年、最も需要が高まっている研究だ。
そんな中で10歳という若さでの覚醒とその才能に目をつけられた、
彼或いは彼女はそれから10年間拘束され、
モルモットのような生活を送ったことを、本人によって暴露されている。
ましてや、一の特異性はそれ以上だ。
一もまたモルモットにされることを危惧した両親によって、一の情報は世に出回らなかった。