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▶︎逃げる
すぐに一は左手を掲げた。
「『ファイアボール』っ!」
その名の通りの火の玉が左手に具現すると、同時に右の拳を引き離す。
そして、連動した動きで火の玉をハイオークの右目に向けて叩きつけた。
『32のダメージ!』
本来は投擲使用する魔法だが、近距離で行使した。
もちろん、そういう状況だったというのが理由だが、
右が利き腕の一には左腕でコントロールするには近距離で無ければならなかった。
それでも、慣れない左腕で外す可能性もあったが、狙い通りの位置に当てる事が出来た。
一にとっては狙い通りの動きが出来たと言ってもいい。
それでも、メッセージウインドウに怯みの文字はない。
「っ……!」
やるだけはやった。
一は離脱に転じた。
『ハジメは逃げ出した!』
そんな余計なことを、伝えなくていい、そう一が思った時だった。
「グルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
それは、絶望のプレリュードだとでも言うべきか。
ハイオークはその巨体で大きく飛び上がったかと思うと、一の逃走経路を塞ぐようにして、一の前に着地した。
『しかし、まわりこまれた』