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蜘蛛の糸か
どんなに困難でも、心だけは折れてはいけない。
心が折れた時は、即ち死だ。死に等しい。
生還が困難な中で、それでも一はそのための方法を考えていた。
どんなにか細くとも、生き延びるための道、希望をーー
姿勢を低く、ハイオークを睨みつけながらも、口元が綻んだ。
「イチかバチか、なんて贅沢は言えないな……」
十中八九なんて言葉すら生ぬるい。
十の中なら九.九、死亡が確定している。
その中で、言い方を選ばないなら、縋れる希望を見出したかった。
そして、シンプルな方法が浮かんだ。
一が唯一使える『格闘家』スキル、名は『突拳』という。
通常攻撃の1.3倍の単発ダメージを与えられるというシンプルな技だ。
一の能力では1.3倍と言っても大したダメージにもならないだろう。
それで、ハイオークが倒せるはずもない。
しかし、これが現状の一の最大火力だ。
これで、この技で、ハイオークを怯ませ、その隙に逃げ出す。
それが、そんな事が一が取れる唯一の方法だった。