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微速前進
息を殺し、ヘルハウンドへと近づく……いや、厳密にはヘルハウンドではなく、その近くのパンテナ草なのだが。
ヘルハウンドに反応はない。
一歩一歩、確かめるように近づいていく……汗が流れるのも、緊張から肺が酸素を欲しがるのもノイズのように煩わしい。
野生動物なら、眠っていても警戒しているという。
モンスターはどうか?
眠り状態なら1ターンは確実に行動不能……みたいな。
そういう、"設定"であるなら、一にとって優位に働く。
とは言え、"設定"を細部まで知られていない以上、ただの希望的観測に過ぎない。
だから、一は一歩一歩、感覚だけを頼りに計っていた。
ヘルハウンドが、目を覚ますかどうかを。
……
長い道のりでも、ゴールは確かにあった。
一にとって最悪のゴールはヘルハウンドが狸寝入り、もしくは眠っていたとしても途中で目を覚ますこと。
そして、最良はヘルハウンドに気づかれることなく、パンテナ草に到達すること。
そして、一は確かにその最良を引き当てた。