16/146
二律背反
そして、煽るようにこう続いた。
『不意打ちのチャンス!』
(適正な能力を持っていればその通りだけど……)
不意打ちをして、一撃で倒せなければほぼ詰みだ。
と言うか、『世界と繋がった者』とモンスターは心臓部などの急所を突かれても、能力としてHPが 0にならない限り死ぬ事はない。
これが当たり前の世界で、ピンポイントで急所を突くことが出来たのなら、一にも勝機はあるだろう。
しかし、再三言っているようにこのダンジョンの仕組みの中ではそんな奇跡さえも起こらない。
一の能力では不意打ちをしたところで、ヘルハウンドを倒せはしないのだ。
故にここは逃走一択。
しかし、これも慎重に行わなければならない。
下手に物音を立てて気づかれれば全てが終わる。
周囲に気遣いながら、低い姿勢のまま後すさりする形で離れる。
と、ある事に気づいてその足を止めた。
パンテナ草がある。
それもヘルハウンドの近くに。
一はその場でしゃがみ込み、考えた。
(……どうする?)