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詰め将棋前編
しかし、それはあくまでも一の話だ。
蘭堂の方に注意を向けると、必死に弓矢で怪物を抑えようとしていた。
そこに余裕などあるはずもない。
蘭堂なら、怪物から一撃貰った時点で即致命傷となりかねない。
(早急になんとかしないと、マズイか……)
とは言え、先程の攻防で得られたのは影のスピードの情報くらいのものだ。
それでどうにか出来るとは、いくら何でもーー
(……いや、スピードさえ掴んだならどうにか出来る)
一の右手に三度火球が生成される。
「悪いな、馬鹿の一つ覚えで」
そんな自虐を影に投げかけると、右手を振りかぶった。
「『ファイアボール』っ!」
影の右側を狙って放たれたそれは、跳躍によって影に回避される。
しかし、既に一の左手には次弾が生成されていた。
「『ファイアボール』!」
回避先に"置く"ように火球を放つ。
影は、それをターンするように避けると転じて一へ反撃に向かう。
「来るよな!『突拳』!」
一の発動の方が早い。
またしても、"置く"ように影が来る位置へ技を放っていた。